第9話 夢にまで見たお風呂! スペイン トレド・セゴビア

 嘘です。夢には見てません。

 だが、暖かいとはいえないスペインの3月、シャワーだけの生活をしていた。

「お風呂に入りたい!」

 そう思っていたのは本当だった。

 スペイン中部のトレドで、お風呂のチャンスが訪れた。バスターミナルから汗をかきながら徒歩で、街の中心(?)ソコドベール広場までたどり着き、周辺でホテルをさがす。

 安いホテルは簡単に見つからず、30ユーロのホテルに決めた。

 私は貧乏旅行が嫌いである。金持ちではないが、貧乏でもない。また、何年も旅行するわけでもない。日本人旅行者は貧乏旅行をしなければならないと思っている人が、案外、多い。ちょっとしたことで、「高い」を連呼する。気に入らない。いや、本当に高いこともあるのだが……。

 私はドミがあるホテルでも、値段が手頃ならシングルルームを選ぶ。ひとりでゆっくりしたい。貧乏旅行者に私の泊まっているホテルの値段を告げると「高い」と叫ぶ。え、5000円じゃんか。快適なら、いいじゃん。

 だめらしいのである。彼らには。

 部屋は悪くなかった。バスルームに入ってみると、そこには待望の物、渇望の物、熱望の物、そう バフタブがあった。ずっと浴槽にあふれるお湯に身を沈めたいと思っていた私にとって、それは仏様の贈り物のように思えた。ありがとう、阿弥陀如来! 弥勒菩薩!(ナゼブッキョウ?)

「やった! バスタブだ! 風呂、風呂、風呂に入れる! やほーい!」

 本当にこう口走ってしまうほど、嬉しかった。

 市内観光を終え、宿に戻った私は、意気揚々とバスタブに湯を注いだ。

 10分後、お湯の具合を確かめる。ここで驚愕の事実が!


 ぬるいの……


 見るとバスルームにはお湯をためるタンクがあり、そのお湯がなくなれば湯がでなくなるというやつだ。温度計は30度くらいを指している。

 バスタブの湯は、入浴にはぬるすぎる。入ればきっと風邪を引く。私は夢にまで見た入浴を諦めざるを得なかった。

「とほほほほほほほほほ……」

 本当にこう口走ってしまうほど、残念だった。


 場所は変わってセゴビアのホテル。30ユーロ。トレドからはマドリッドを経由して訪れたアビラの次の目的地だった。

 そしてここにもバスタブがあったのだった!

「おおお! トレドの敵をセゴビアで討つのだ。しそんじてなるものかぁ!」

 街の観光を終え、バルでスペイン風オムレツでビールを飲み、宿へ戻る。

 湯を張る。温度を確かめる。暖かい! やた、やた、やったよー!(コロ助風)

 私は久々のあったかいお風呂を満喫した。でも少し、おもしろいことが。


 垢が、尋常ではなかった。


 体を洗い終えているのに、くるぶしのあたりをこすると垢がでるでる。腕も、足も、腹も。私はできるかぎり垢を落とした。体重に影響あったかどうかは、体重計で測っていないので不明である。

 翌日、湯を抜いたバスタブをのぞくと、垢がものすごい付いている。すげーっと感想がもれる。

 そしてこのセゴビア以降でバスタブに再会するのは、日本の自宅に帰ってからになった。

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