第14話
冬休みが過ぎて、中一がそろそろ終わりかけたころだった。どういうわけだが、彼女の様子が・・・、雰囲気が・・・一変した。それは“少しずつ”というものではなく、“みるみる”というよりももっと早く、“突如として”という表現が相応しかった。僕にとってはいままでとおりの付き合いを続けたい一人の特別な女の子だったから、変わらず接していたかったのだけれど、急に不良っぽい振る舞いをするようになった。人を遠ざけるようなオーラをますます放ち、それと同時に僕に対しても妙によそよそしくなった。
「どうしたんだ、掃除しないのか・・・・・・。最近の大原、ちょっと雰囲気変わってきてないか?」
六時限目の終了チャイムと同時に教室を出て行こうとした彼女を捕まえて、僕はストレートにそう尋ねた。
「ちょっと来て!」
僕の呼び止めに対して“仕方ない”という表情を浮かべながら、彼女は僕を廊下に連れ出した。そして非常階段の踊り場に向かって歩き出したが、そこに着くまではずっと無言だった。
「別になにもないよ。アタシがそうしたいからそうしているだけだよ」
「そんなことないだろう、何があったんだ」
最近の様子といまの態度を見ると、何もないと考えるほうが無理だった。
「他人に言うことじゃないけど・・・、まあ小竹にだけにはしょうがないから言うけど・・・、ママがちょっと病気でけっこうたいへんなのよ。この間ちょっと入院したときアタシと妹はオバさんの家に預けられて、それがけっこうイヤだったんだよ」
事態の深刻さがちょっとなのか、けっこうなのかよくわからなかった。
「ママって・・・、大原のお母さんのことか?」
「他に誰がいるんだよ」
「そんなにたいへんなのか?」
「胃ガンって言われている」
彼女のトーンが急に落ちていくのがわかった。
「治るのか?」
中学生が“ガン”と言ってもあまりピンとこない。そう言えば僕の遠い親戚の誰かがガンで死んだなんてことを両親が話しているのをなんとなく聞いたことがある。ガンっていうのは、もしかしたら死ぬ病気なのだ。
「わからないよ。なるようにしかならないんじゃないのか!」
もっともな返答だった。急な申告だっただけに、僕も何をどう尋ねたらいいのかよくわからなかった。
「それでどうするんだ? でも、それと最近のオマエの変化とに何が関係あるんだ?」
不安でいる気持ちはわかった。ストレスのはけ口がないのもなんとなく理解できる。でも、それによってこの態度というのは少し違う気がした。
「だからアタシも疲れるんだよ!」
すでに話しを続けるのが面倒くさくなっているようだった。もう質問に答えたのだからこれでいいでしょというような態度を示しはじめたので、僕は何かしらできることはないかを考えた。でももちろん、当たり前だけれど、中学生のガキにできることなど何もなかった。
「僕の親は獣医だけど、なんか役に立つかな?」
「ジュウイって動物の医者でしょ・・・、人間の先生じゃないんだから立つわけないでしょ。バカじゃない」
それはそうだ。牛のキズを縫ったり、注射をしたりしている父の姿は想い浮かぶけれど、人間を診ている姿はまったくイメージできなかった。それにしても“バカ”はないだろう、心配しているのに。
「じゃあ・・・、僕が医者になればいいんだろう!」
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