第15話
中学二年で違うクラスになってしまった僕の見える範囲からでは、彼女の詳しい人となりや正確な行動を捉えることが困難になってしまった。ときどき見かける彼女の姿から察すると、ちょっとずつ浮いた存在になっていったような気がした。セーラー服の丈が短くなり、髪のスタイルとカラーとが変化していった。
かつて、僕をちょっと社交的にしてくれた彼女は、少しずつグレていった。本当の詳しい理由はわからなかったけれど、やはり家庭に事情があったのかもしれないし、もっと他に何かがあったのかもしれない。でも、彼女の変わりようは、いじめられないためのひとつの防衛策だったのだと思う。なぜなら、教師たちが彼女の家庭環境について話し合っているのを聞いてしまったことがあるからである。そういう“君歌”みたいな生徒は、いじめたい子たちからしてみれば格好の餌食だ。このままだったら彼女がいじめの対象になるのは、きっと時間の問題だった。
校舎のなかでときどき見かけることはあったが、話しかけられるような雰囲気ではなくなってしまった。彼女の素行の悪さがときどき耳に入ってきたけれど、それは、他の生徒とケンカをするとか、タバコを吸うとか、万引きなど軽犯罪的なことをするとかではけっしてなく、ただ単に学校に来ない、もしくは体育をサボって途中で帰るという、ごくごく気まぐれ的な行動のようだった。そして、不良といっても、似たような連中とつるんでいる様子はまったくなく、どちらかというと独りでいるほうが多くなったような気がした。
小学時代にちょっと仲が良かったからといって何かができるわけでもなく、彼女を見るにつけ、遠くに行ってしまった淋しさと、どうしようもないやるせなさとを感じるだけだった。なすすべもなく遠くから眺めるしかなく、要するに、ただ単に、情けないことに・・・・・・、僕には勇気がなかった。
そんななかでのある日、二年生の夏休み前だったと思う。下校途中の彼女に久しぶりに会った。
「あっ!」、彼女はちょっとだけ驚き、そして一瞥をくれた。が、すぐにその眼差しは僕を通り抜けていった。そして、それ以上に話しかけてくることもなかった。とっさのことだったので、やっぱり自分も何もできなかった。だけど、その一瞬の彼女の瞳から――何かを言いたかったのか、何かを訴えたかったのか――、僕は何かしらの叫びを聞いた気がした。
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