第15話-2遅刻常習犯
誰かが道路を挟んで反対側に立っている気がした。俺は振り返った。そこには待ち人がいた。
俺はお前の名前を呼んだ。
俺の声は車の音に掻き消された。
俺はもう一度お前の名前を呼んだ。
お前は応えなかった。
いつもならお前はこう応えただろう。
「また遅刻かい」
遅刻常習犯の俺を見て、また遅れたのかと言うだろう。いつもそうだった。いつもそうやって、お前は笑ってくれた。
「遅れて悪かったな」
俺もそう言って、いつも笑った。
そこにはいつものお前はいなかった。まるで赤の他人を見るような顔で、お前は俺を見た。
道路とそこを走る車が俺たちを遮った。車が通り過ぎる一瞬の後に見えたのは、お前の背中だった。
お前は俺に背を向けて歩き出した。
会おうと言って待ち合わせたはずなのに、お前はそこから去っていこうとした。
「待てよ!」
俺はお前の名前を叫んで呼び止めようとした。
お前の耳には届かなかった。
俺は走り出した。お前の背を追って。
何かを決意した顔。俺はそんなお前に追い付けるのか。今度こそ遅れずに、笑い合えるのか。
お前は走った。何かから逃げるように。後ろを追う俺から? それとも、俺の後ろに迫るだろうあいつから?
追いかけてやろうじゃねえか。
追われてやろうじゃねえか。逃げて、逃げ切ってやる。あいつなんかには捕まらない。
時刻はもう夕暮れ時。空には月が上り始めていた。影が濃くなって闇に溶けていくのはあっという間だった。
どこかでイヌの鳴き声が聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます