第14話-2手紙

あいつは手紙に書いた日付、時間に俺たちが待ち合わせた場所へ行った。らしい。


いや、見たわけじゃねえよ。だって俺、遅刻してんだから。その場にいないんだって。

いたのは、




そこにいたのは、







一年前そこにいたのは、お前だ。

友人A。

お前、あいつに捕まっちまったんだ。




一年前の約束の日。約束の時間。

いるはずのない待ち人。

お前、なんでいるんだよ。

いつもならいないだろ? どうせ俺、


『どうせ君は遅刻するんだろ』

「どうせお前は遅刻するんだろ」


どうせ俺、遅刻するんだからさ。




その時のお前がどうしてそこにいたのかはわかんねえ。記憶がなくなったお前にもわかんねえだろ? 友人A。

でも、お前はそこにいたんだ。

俺の後ろを追ってくる鬼。行くとこ行くとこ着いてきてる。だから俺の知り合いを狙ったんだよ。

一番の獲物の「俺」を手に入れられない腹いせか、俺の知り合いばっかり狙った。これが行方不明の事件になっちまった。


ほんっっっと、嫌な奴だ。


俺の大事な同僚も、知り合いも、恩人たちも、両親でさえ奪いやがった。最後に親友さえ奪うなんて、鬼かよ。鬼だったな。




俺はポストに入ってた手紙を一目見て「は?」って思った。親友の名前を使った、親友の手紙を真似した手紙。そんなことをするのはあいつしかいない。

俺、お前がそんなことになってるなんて知らなかったんだ。一年ぐらい連絡も取れていなかったけど、何も変わらず元気にやっているんだと、そう思ってた。安心しきっていたんだ。

いつからだろうな、お前との連絡が取れなくなったの。


そうだ。

ちょうど、一年前の。

約束の日から?


いや、もっと前?


いつからだ?


頭がぼんやりとする。

目が、霞む。


いつから。


いつから?


頭が、ぼんやりと。







「頑張れ」







ぼんやりとした頭の中に、懐かしい助産師さんの声が響いた。頑張れ、頑張れって、俺の背中を優しく叩いた。その瞬間、それまでぼんやりとしていた頭が、意識がはっきりしたんだ。

頑張らなきゃ。できることをしなきゃ。諦めるな。諦めるな!


俺は携帯電話を手に取った。そして発信履歴を呼び出した。

友人A。お前に繋がる電話番号だった。

それまで何度もかけて、最近じゃ繋がらなくなった番号。そこにかけた。でも流れてきたのは、おかけになった電話番号はー、っていうアナウンス。その時もお前には繋がらなかった。

だから、俺はもう一つの番号にかけた。お前の携帯じゃなくて、お前の自宅電話の番号だ。そこにはおばさんもおじさんもいる。すぐに繋がったよ。

どうしてもっと早くにかけなかったんだろうな。どうしてもっと早く。


そこでやっと知ったんだ。


お前、一年前に出掛けたきり行方不明だったんだな。

俺、また遅れを取ったのか。

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