第14話-1手紙

ちっげえよ!!! ばぁーーーか!

友人A。お前からの手紙はとっくの昔に届いていたんだ。同窓会の案内が来る前に。

ただ、結局のとこ俺はそれにずっと気づかなかった。気づいたのは一年後だ。

ま、いつものことだろ。


そう、いつものことなんだ。

俺がぐだぐだノロノロ遅れるのは、いつものことなんだよ。だって俺は遅刻常習犯なんだから。みんなが俺を振り返ってそう呼

んでくれるみたいに、俺はいつも遅刻する。


産まれる時だって遅刻したさ。だけど、今はそれでよかったと思うんだ。

俺は普通に考えれば母さんと一緒に死んでた。母さんと一緒に、あいつに屋上から突き落とされて死んでた。産まれる前に。

遅れてでも産まれて来れたのは幸せなことだ。生きて産まれて来れたんだから。

ほら。遅刻するのも場合によってはいい方へ傾けるだろ?


ごめんごめん! ちゃんと遅刻しないように気を付けます! わざとじゃないんだって!


ああ、だからさ。その時も思ったんだよ。友人Aは俺が遅れるのを見越して、早めに約束の時間を言ったんだってね。

友人Aとは一番付き合いが長いんだ。俺の扱いも慣れてる。俺がいつ手紙に気づくのかも大体予想できるんだよ。

俺が、いつ約束の場所へ来るか。それも予想できる。


『わあ、すごいねえ』


これぞ親友の成せる技!

つまりさ、俺と友人Aの間ではもう約束は成立してたんだよ。いついつの何時にどこで会おう。その手紙は俺の部屋、小学校の宿直室のファイルにもちゃんと綴じてある。

遅れても忘れないのが遅刻常習犯の正義。


じゃあ、家と思ってた所にあるポストに入ってた手紙は何なのか。空き地に残ったポストに投函された手紙という紙切れ。

手紙の中の話し方は俺の親友とは違う。別人だ。でも内容は同じ。宛名も俺宛の手紙。

誰からの手紙だと思う?


あいつだよ。あいつが俺への手紙を見たんだ。




「同窓会の案内、来たか?」

「何人か、もう先にいってる奴らもいるらしいぜ」

「どうせお前は遅刻するんだろ」

「同窓会の前に、さいごに1回会えないか?」




友人A、覚えてないか? 思い出さないか?

お前も同じ内容の手紙を俺に寄越したんだよ。


あいつは俺に届いたお前からの手紙を真似したんだ。理由なんて決まってる。これで最後にするつもりなんだ。

俺にはもうあいつが作った牢屋は見えない。あいつが何をしてきたのか、あいつが何なのか知ったんだ。だから、逃げられる。あいつから。俺には生きてきたこの桜ヶ原があるんだから。

それに、あいつだってずっと追いかけられるわけじゃない。この桜ヶ原に居続けることは不可能だ。

あいつは余所者。俺たちの桜の姫と七不思議が黙っていない。

あいつはやらかしたんだ。桜の下で罪を犯した。


バツヲアタエナケレバナラナイ

バツヲウケサセナケレバナラナイ


あいつは、今度こそ逃げられない。

もう外へも戻れないし、内を逃げ回ることだってできない。


ナナフシギノトリデハフッカツシタ


崩れていたはずの「砂時計」が甦った。七不思議は復活した。

あいつの逃げ場は、もう、ない。

だから焦ったんだろうな。最後の最後で俺を罠に嵌めようとした。でもあいつは俺をよく見てこなかった。

俺の「遅刻癖」を知らなかったんだ。バカだよなぁ、ほんと。父親って呼ばせといて、全く子のことは見ていない。あいつにとって俺はずっとただの「獲物」だったんだ。目の前にある、手の出せない獲物。

ヨダレをだらだら流しながら待っていたんだろうな。待ちきれなくて他の獲物に手を出すくらい。

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