第13話-1今話
助産師さんの遺体は火葬されて、ちゃんと母さんと同じ墓に入れられた。目の前にいる彼が、後輩として務めてくれた。
俺はもう、地面に頭が着くくらい深く深く頭を下げた。彼には感謝してもしきれない。
だけど彼も俺に頭を下げた。ずっと俺のことを探し出せなかったこと。連絡も取れずに父親と別れさせてしまったこと。彼は謝った。
しょうがないことだったんだって俺は言ったさ。だって、余所者が桜ヶ原に入り込めた怪異に対抗できるはずがない。
あいつのせいで記憶も認識も曖昧でぼやけてしまってた。俺と連絡なんて取れるはずがないんだよ。
ただ、俺はラッキーだった。
この歳になるまで生き残れた。それはきっと、この土地の七不思議が、桜の姫が護ってくれてたんだ。
だから一時は崩れたはずの七不思議が復活して、あいつの力が弱くなるタイミングが生まれた。
だからあいつが隠した行方不明の人たちが発見された。
俺というとっておきの獲物を確保しておきながら、七不思議の守りで手を出せない。焦って飢えた末に別の獲物へ手を出し続けたのが仇になったんだな。
だから警察官のおっちゃんからメッセージを受け取ることができた。
だから助産師さんの遺した手帳を見つけて、病院にいる彼と出逢えた。
知らなかった、知らなきゃいけなかった本当のことに出会えた。
全部、ラッキーだったんだよ。
「君はいい子だから、きっと将来いいことがあるよ」
恩師が小学校卒業の時に言ってくれた言葉が、俺の耳に甦った。
先生、いいことあったよ。
遅かったけどな。
彼は俺の背中に広がる手形を見ながら言った。
「ごめんね。これ以上僕ができることはないよ」
俺の背中にある手形たちを擦りながら彼は言った。充分だよ。充分過ぎるくらいだって。俺は笑って彼にお礼を言った。
それが、彼と会った最初で最期の時間だった。
次の日、彼の奥さんから夫が亡くなったという連絡がきた。
遺体の背中には手形。死因は先輩だった助産師さんと同じ、凍死だった。
彼が見つかったのはまさにそこ。俺の父親の遺体が発見されたとこと同じ冷凍庫。
死体が発見されたなんて冷凍庫、使われてるはずがない。だから電源も落ちていたはずなんだ。そう、彼の奥さんは泣いて俺に伝えた。
そんな奥さんからの連絡も途絶えた。
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