第12話-1昔話

俺と彼は話をした。全部、始めから。

話を耳に聞いた。

話を口にした。


みんな、聞いてくれ。俺のこと。







まず、母さんと父親はこの桜ヶ原の出身だった。地元民だった二人は恋に落ちて結婚した。

高校を卒業した後、二人は桜ヶ原を出た。二人とも医療系の仕事に就きたかったから。

大学で出会ったのが、二人の後輩。俺が話した彼と、その奥さん。


ほら、どこかで聞いた話じゃねえか? 特に、コンビニ経営の後輩を持つお二人さんよお。

俺の両親もそうだったんだ。外に出て、いい後輩に慕われて地元に戻ってきた。


大学を卒業して二人は病院に勤務することになった。場所は、桜ヶ原にある唯一の病院。当時の旧病院。

今じゃ「廃病院」なんて呼ばれてる、その、いろいろあったらしい場所。別にそれが原因で今の新病院に移動したってわけじゃないそうだけど。まあ、いろいろあったんだろうな。

その「いろいろ」の中に俺たち家族のことも含まれてた。


めでたく後輩の二人も希望が通って四人で同じ職場で働けるようになった。先輩同士、後輩同士で恋愛も上手くいってた。式こそ挙げなかったらしいけど、入籍もして仕事も生活も張りが出た。

照れながら笑って言った彼の首には吊るされた指輪が光ってたよ。医者って、指に指輪できないんだな。

俺の両親も、そうだったのかな。

幸せだったんだろうな。幸せであってほしい。

そんな話だったんだ。


母さんの妊娠がわかるまでは。




妊娠がわかって、母さんは退職する流れだった。誰も文句とか言うはずもなかった。あらかじめ両親は周りに言っていたみたいだから。

子どもができたらどちらか退職します。

それを言われた周りも理解していた。後輩の二人も同じようにするって決めていたみたいだ。


引き継ぎも順調で、お腹もふくふく膨らんでいく。マタニティブルー? そんなのもあったらしいけど、初めての出産なんだから当然だろ。

全部、順調だったんだ。母さんの体も弱いわけじゃないし、悪いところもなかった。

それは診断した目の前の彼の奥さんが証明できる。奥さんは産婦人科の医者。俺の母さんを診たのも、その人らしい。ちゃんとカルテも残ってる。

順調だったんだよ。


でも、母さんは死んだ。


死因は、


「転落死だった。前の病院の、屋上から落ちたんだ」


事故だった。

偶然だった。

俺はほんの少し、安心した。


ははは。柵が壊れていたとか? 風が強かったとか? 足を滑らせたとか?







彼は続けた。


「何かに背中を押されたんだ」


息が止まった。







行方不明者の発見時の特徴。

背中に大きな手形。


誰かに背中を押された。

ナニカに背中を押された。

その、行方不明事件の犯人は?







父さん







背中を押したのは、「父さん」。




母さんはすぐに集中治療室に運ばれた。旧病院は横に広くて縦に短い。だから、屋上から落ちたとしても助かる確率が高かった。現に、母さんは即死じゃなかった。偶然にも落ちた場所が植木のすぐ上だったらしい。

でも結局亡くなったんだから、転落死なんだろう。

落ちた母さんの処置に当たったのは、外科医だった目の前の彼。それと、母さんが妊婦だったという理由で助産師さんがついた。

結果は知っての通り。母さんは助からなかった。その代わり、奇跡的にお腹の中の子は生きてこの世に誕生した。

俺は、死んだ母さんの亡骸から助産師の手で取り出された。













オチタ

オチタ

オトシテヤッタ

後ろの正面だぁれかな


彼女の顔を見た人と

あいつの背中を見た人は

憑いたダレカを知るだろう


後ろの正面だぁれかな

奇しくもあの人とおんなじ顔

だけれど違う

狂った笑みで突き落とす

あいつはダレダ

そいつはダレダ


相談しましょ

そうしましょ


過ぎた話はまだ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る