うろのなか

水原緋色

うろのなか

 あの日、あの時から、波風を立てるのを嫌って口をつぐんだ。

「好きな子とかいないの?」

 女子高生の好きな話題。

 いないよ、と返しながら笑う。

 誰がかっこいいとか、誰と誰が付き合っているとか、興味もない話題に適当に相槌を打つ。

 可愛い洋服、メイクに恋愛。『女の子』というカテゴリーは今日も窮屈だ。


「ため息なんかついて、どうした?」

 可愛らしいキーホルダーを揺らし、彼は心配そうにこちらをのぞく。

「女の子でいるの、限界」

 ポツリとこぼせば、彼は小さな子を相手にするようにこちらの頭を撫でた。

「何言ってんの。大丈夫。ちゃんと女の子だよ」

 またひとつ、心にうろができた。

 まだ、うろのなかから抜け出せないのかと、ため息をついた。

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うろのなか 水原緋色 @hiro_mizuhara

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