朝、だろうか。

電気のない部屋。薄い布切れのようなカーテンにすら遮られるような光では暗くてよく見えない。


いつも近くにおいているランタンに明かりをともした。

時計を見る。チクタクと針は音を立てながら10時を指していた。

寝てから6時間ほど立っている。

それを確認してからいそいそと身支度を始めた。


塵に覆われていて、もう夜か、朝かなんてわからない。

いつからかこの地球ほしは常に灰色だった。

父さんや母さんがまだ子供だったころは、空から光が入って来ていたらしい。

僕が物事つく頃にはもう、人間世界は灰色だった。時折、チカチカとあたりが反射する。最初は、ニコニコとそれを受け入れていた。

大きくなって、妹がうまれた。

僕より小さくて、か弱い妹。このときから、母はうごけなくなった。

多分それくらいだったと思う。僕は父さんに連れられて食料の調達に外に出るようになった。

少しでも変なものを拾おうとすると、すごく怒られて、怖かった。でも、父さんとの秘密の遊びのような気がしてとても楽しかった。


ラナを起こさないように廊下へ、脱衣場に向かった。

機能消毒した、乾ききっていない防護服に身を通した。

今日は、少し遠くへ行って見よう。

なにか、なにがあるのかはわからないけれど、新しい何かがあるかもしれない。

少しだけ希望を持ってドアをくぐった。


ゴーグルを通して上を見上げた。相変わらず、灰色だ。きれいに、むらなく、きりのように、灰色だった。


シュー、シューと呼吸する僕の音が、異様に大きく聞こえた。

積もってしまった、なにかを僕はいつものように踏み潰して進む。

毎日、毎日。似たような道だ。


けれど、今日はちがう。

いつもの道を外れる。いけないことをしている気がして胸がドキドキする。

不安が広がる。

僕は悪いことをしているのか、家に帰れるのか。

怖くなって後ろを振り向いた。遠くにかすかに家が見えた。その中で寝てるだろう妹が頭に浮かんだ。

このあたりになにかまだ残ってる保証なんてどこにもない。

父さんと見つけた採集場ももう残り僅かだ。

だから、代わりの場所を見つけなくちゃいけないんだ。いま、余力がある内にやらなくちゃ。きっと、これはいいことなんだ。


前を向いて進む。

方向がわからなくならないように、いびつな形の棒を曲がるときの目印のために持っていった。


そのままひたすら歩く。

僕は外が嫌いだ。

舞ってるのか降っているのかわからない、ひたすら空気中で視界にあるそれを見ると、頭がどうにかなってしまいそうだった。

けれど僕が大嫌いな外に、ラナは行きたがる。僕は行きたくもないのに、僕達のために頑張って向かっている外に、彼女は夢を抱いている。

時折、だめだと言ってるのにこっそりと外を覗いて、とても広いね、とはしゃいでいるのを僕は知っている。それすら奪ってしまうのは気が引けて、見て見るふりをしているけど本当は良くない。

彼女はどうして外に行きたがるのか僕には理解できない。こんなにも恐ろしくて、鬱陶しい場所なのに。景色だって全く変わらない。自分の呼吸とかすかな足音しかしない。建物だって、いつ僕を殺しに来るかわかったもんじゃない。こんな死の世界みたいなものなのに、彼女は。父さんや母さんを奪って、ラナを、僕をいじめるこんな場所なのに。


そう思って泣きそうになる。

防護服の中じゃ涙だって拭えないから一生懸命我慢したけれど、ボロボロとこぼれて顔がベタベタする。


泣き止まなくちゃ。嗚咽を漏らしながら思う。水分がもったいない。

僕が頑張らなくちゃ。ラナのために。僕のために。一人ぼっちになりたくない。


頭を振って前を向く。そうやってしばらく進んでいると目の前に少し三角形の何かが地面から突き出しているのが見えた

気になって、木の棒の歪な方を来た方向に向けて地面に刺し、その何かに走って近寄った。


よく見ると、地面から突き出しているのではなく、埋まっているようだった。

端に沿って掘り出そうと地面をかき分けた。

すごく派手な、赤色と青色の飾りが文字を書いていた。

ほった地面を移動させ、堀田地面を移動させる。これをどれくらいかしばらく繰り返していると、窓があって中身が見えた。

暗くてよくわからないが、全歪んでいるも結構奥行きがあり、小綺麗に見える。

急いで窓をすべて出そうと周りの地面をどかす。

ここまでどかせば自分が入れるだろう。

そう思って一息ついて座り込んだ。

そういえどれぐらい歩いて、どれぐらい掘ったのだろう。全く検討がつかない。


ラナは無事だろうか。


少し考えて、帰らずにここを探索することを決めた。

またここにたどり着ける保証はないし、それにこれくらいならまだきっと大丈夫だ。でも急がなければ。

気合を入れて、よしっと立ち上がる。

改めて窓と向き合うも、この窓は叩けど、揺らせど開く素振りはない。

仕方がないから、壊すことにした。


あたりを探す。

何もない。


そりゃそうだ。

そこで一つ考えが思い浮かぶ。

そういえばボンベを背負っていた。ボンベ。これをつけずに外に出たらだめだと父さんに言われていた。だから重くて邪魔だけどしっかりと付けていた。

これで叩けば窓が割れるかもしれない。


そう思い背中のリュックの中から、ボンベを一つ取り出す。

チューブから取り外している間はなんとなく息を吸ったらだめな気がして直前に大きく息を吸い込んだ。


『…せーのっ』


頭の中でかけ声をして人思いに振り下ろした。

ボンベがガラスに当たる。

ひびが入る。

ひびが入って、広がって、窓が割れた。


パリンと、大きく音がなる。

外で聞いた初めての大きな音かもしれない。


割れる音は空中に響いて、でも思ったよりは遠くに行かずに地面に吸収された。


空いた穴にボンベが吸いこまれる。勢いをつけただけ合って、支えられずに体が引っ張られた。


そのまま僕は穴に落ちる。


「いったっ!」

何か腕がガラスに引っかかり、ビリっと破ける。

それでも勢いは止まらず、ゴロゴロと棚に当たるまで僕は落ちていった。


「いたたた…」

背中を擦りながら身を起こす。

入って初めて気づいた。

ここは建物だ。


なんの建物かはわからないけれど、建物だ。

地面にうもれて建物全体が傾いていた。



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