魔術師、根性なし

「疲れた、煙草」

「またですか……」

 普段ロクに外を出歩かない人間に20kmも歩かせようとする方が悪いと思う。

「歩き始めてからまだ一時間なのにもう五本目ですよ……死にますよ?」

「ここから約三時間も歩くんだからむしろそれだけで死ぬよ」

「じゃあ尚更煙草吸うのやめましょうよ」

「それは精神的にヤバい」

「そもそも! なぁんでギルド所属で依頼まで受けてた人がこんなに貧弱なんですか!」

 ロクに働いてなかったって師匠から聞いてないのか。なんでバリバリ現役の冒険者みたいな紹介の仕方をしたんだあの人は。


「そもそも俺はギルドでも仕事してなかったし、パーティーでダンジョンに行った時も休憩多めの役立たずだったんだけど」

「はあ!? なんですかそれ!? アレイシャ様から一番弟子だって聞いたからあなたを連れてきたのに!! 虚偽広告じゃないですか!?」

 人を詐欺師みたいに言うな。俺が宣伝したわけじゃないし師匠が勝手に言っただけだ。

「いや、そりゃあ俺しか弟子がいないんだから強制的に一番弟子ってことになるだろ」

「あぁぁぁぁ……!! どうするんですか!? 里の人には優秀な魔術師の人を連れてくるって言っちゃったんですよ!!」

「まあ、飯がもらえて寝床が借りれるんならできる限りの事はやるよ。たどり着くまでにどのくらいかかるか分からんけど」

「ううぅ……。里の人たちになんて説明すれば……」

「話聞いてる?」

 すごく絶望してるみたいだ。人を引っ張り出しておいて失礼な奴だな。


「聞いてますよ……。と、言うかそんな感じでなんでパーティーに入れたんですか……」

「幼馴染のよしみだよ。あとまあ、あの人から一通りの魔術は使えるように教えられたから、実力的には使えるって判断されたんだと思うよ」

「アレイシャ様から全ての魔術を!? 全部って、ZENBU!?」

「なんで片言だ? 威力とか性能とかがあの人レベルかは分からんけど、一通りの魔術の使い方は教わったよ」

「な、なるほど。そういうことですか。でもそれなら何とかなりそうですね!」

「さっきから失礼な奴だな君は」

「それは申し訳ございません!」

「情緒どうなってんだ」

 テンションの上がり下がりの激しい子だ。話してるだけで疲れてくる。


 ごちゃごちゃと話してる間に煙草を吸い終わったので吸殻を灰皿に押し込み立ち上がる。

「そういえばそもそも、依頼内容もまだ聞いてないんだけど、村の人たちの病気ってのは一体どういう状態なんだ? 歩きながらでいいから教えて」

「はい。現時点では原因は不明ですが、初めに下痢嘔吐を伴う高熱が発生し、進行とともに体の一部に斑点状のあざが出ます。末期にはあざが全身に広がり死に至ります」

 歩きながら症状を説明してくれるが、症状を聞く限り類似する病は俺の知識にはない。

「なるほど。まずその高熱がどの程度のものなのかが気になる。エルフの平均体温は人と同じか?」

「いえ、エルフの平均体温は40度程度です。高熱となると43度程度になります」

「君みたいなハーフエルフは?」

「ハーフエルフの場合は37~39度くらいで個人差がありますね。高熱時は同じくらいですね」

 なるほど。そうなると、同じ病気に罹ってもハーフエルフの方が重症化しそうなもんだが、この子を見る限りその心配すらしてなさそうな雰囲気だ。

「感染した人達には何か共通点はある?」

「感染した人達が何かおかしなことをしてたという話はありませんが、感染した人達は皆純血のエルフの方ですね。人間やハーフエルフからは感染者は出ていません」

 なるほどな。人よりも毒やウィルスへの耐性が強いエルフだけが感染、だとすればウィルス性の病に加えて呪術の可能性も高くなる。それで魔術にも医療にも造詣の深い師匠を頼りに来たと。

 でもって師匠も人に感染する可能性が低いなら問題ないと判断して俺に任せたわけだ。


「それで君が来たわけか。病がウィルス性だったとしてもハーフエルフである君なら外に持ち出す心配はなく、ただの人間より体力もあるから里からエアリアルまでの往復時間も短くて済むと」

「そういうことです! 復路は残念ながら絶賛立ち往生中ですが……なんでまた煙草吸おうとしてるんですか……」 

「頭使ったから疲れた」

「そんなに考えることなかったでしょう!」


 エルフの里まであと15㎞。

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ポンコツ魔術師のパーティー再加入作戦 シャーロット @Charly_VFighter

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