魔術師、依頼探せず
「起きろ穀潰し」
翌朝、気持ちよく寝ていたのに布団を消されてしまった。収納魔法だろうか、酷いことをする師匠だ。
諦めてリビングに向かうと、食卓には一人分の朝食。フレンチトーストにコーヒー、THE朝食って感じで非常に良い。
「朝飯はもう食べたんですか」
「お前の飯だという前提で話すな。これは私のだ。働かないうちは飯は自分でなんとかしろ。こうして寝床を用意してやっただけありがたいと思え」
先程その寝床も奪われたのだが。夕飯は良いから、朝飯くらい用意してほしい。
「そもそもパーティーから追い出されたのも実力云々よりその人間性が問題視されたからだろう」
実力があるかはわからないが恐らくそうだろう。だがパーティーからたたき出されるほどの人間性ではない気もしてる。
「師匠の使い古した杖を、オークションに出品した奴の人間性は間違いなく底辺だよ」
「そういえばそんな事もありましたね」
「もう少し申し訳なさそうにするとか無いのかお前」
若き日の過ちの一つだ。あの時は殺されるんじゃないかと思うくらい怒られた。かなり怖かった。
「当たり前だろう。とにかく、今はその怠惰かつ非道な人間性をどうにかすることを考えろ」
「酷い言われようだ」
「今の所事実を並べ立てただけだ」
なんてことだ。自分では一般的で常識的な魔術師だと思っていたが違ったようだ。
「思ってもないことを考えるな。というか師匠の読心術を試すな」
「……チッ」
「今舌打ちしたな聞こえてたからな」
「それはさておき、今日は結局何をさせる気ですか」
「さておくな。何かを無理強いされるみたいな言い方をするな」
大変そうだな。普段から人と関わらないから会話するだけでも一苦労って感じだ。
「はぁ……普段から仕事をしてなかった奴がいきなりダンジョンに出たって死ぬだけだ。ギルドで一人用の適当な依頼を探してこい。カジノに行ったら夕飯も抜きだからな」
なんてこった。さすがに二日連続で飯抜きは辛い。今日こそ勝たないと。
「じゃあとりあえず、300シルバーほど貸してください。倍にするので」
無一文で家から叩き出されてしまった。仕方ない。ギルドで楽そうな仕事を探そう。
パーティーのありがたみを感じる。みんなで借りてた家はギルドに近かったからギルドに向かうのにここまで時間がかからなかった。ここからギルドに向かおうとする二十分もかかる。
「疲れた」
多分家を出てから五分くらい経った気がする。タバコを吸って休もう。
昔この辺の森を全焼させてから師匠に滅茶苦茶怒られて灰皿を持つように言われた森だ。随分と木が生えそろって元通りに近づいた気がする。自然の力はすごいな。
「うぅ……」
女の子が倒れてる。いつも煙草を吸うときに座ってる切り株の近くなので非常に邪魔だ。
「大丈夫ですか」
「何か……食べ物はありませんか……」
「煙草とカジノの景品のせんべいしかない。どっちにする」
「おせんべいの方でお願いします」
「はい。じゃあそこちょっとどいて」
「あ、すみません……」
切り株に座り煙草に火をつける。女の子はせんべいをむさぼっている。耳が尖っているがハーフエルフだろうか。
「……」
「……」
何か話してくれないだろうか。非常に気まずい。煙草ももうすぐ吸い終わってしまう
「……それで、君はこんなところで何を?」
とりあえず話を聞いてみることにする。
「あ、すみません。ごちそうさまです! 私、ハーフエルフのミカヅキと言います! ここから南西20kmほどに位置するエルフの里からアレイシャ様を訪ねに来ました!」
テンションの高い子だ。どうやら師匠に会いに来たらしい。
「なるほど。師匠の家ならここから五分くらい行ったところにあるよ。じゃ」
「そうですか。ありがとうございます! あ、おせんべいも! このお礼は必ずしますので!」
そういって走り去っていく。あ、転んだ。
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