魔術師、宿無し、里帰り
当然五分でスった。
宿付きで出来る仕事を探そうと考え、ギルドに赴く。
「こんちは」
「あらレイジさん。珍しいですね」
受付嬢の子が対応してくれる。口調は落ち着いているが、珍獣でも見たかのような表情だ。
「キリヤにパーティーからもシェアハウスからも叩き出されまして、出来れば依頼主が宿を用意してくれてるタイプの依頼とかありませんか?」
「なるほどですね。あまりにもポンコツだから追い出されちゃったと」
「あんまりハッキリと現実を認識させないでもらえると助かります」
「それは認識するべきかと。とにかく探してみますね」
「お願いします」
久々に来たギルドの中を見回してみる。依頼の受付の他に食堂の役割も果たすこの建物は、前に来た時は全席灰皿が置いてあったのに、真ん中あたりに仕切りがあり喫煙席と禁煙席が分かれている。
「レイジさん。お待たせしました」
受付嬢の子が声をかけてくる。見つかったのだろうか。
「宿ありの依頼は無いですね。宿無しでもレイジさんの実力だと難しいクエストが多いです」
無いようだ。まあ仕方ない。とりあえず今日はここに泊まるとしよう。
「ダメですよ」
「まだ何も言ってません」
「大体想像は着きます。ここは依頼を受けてない方の寝泊まりは禁止なので」
……現実は非常である。
ギルドの中に希望はないことを確認したので、他の打開策を考える必要がありそうだ。まずは、師匠のところにでも訪ねるとしよう。
なんとなく、何を言われるか想像はついているが。
「帰れ」
「それが久々に顔出した弟子への言葉ですか」
当然の反応である。
この人が俺の師匠。200年近く生きるハーフエルフの女性だ。落ち着いた大人の女性で、至高の魔術師なんて言われ方をしているらしい。愛想が悪い以外は欠点のない人で、俺の物心ついた頃から親代わりをしてくれていた。
銀色の長髪がきれいで、胸は控えめ。身長は俺より少し高め。
「大体のことは想像がつく。どうせ仕事もろくにせずにギルドかパーティーからたたき出されたんだろう」
「そこまで分かってるなら可哀想な弟子に救いの手を差し伸べたりしてみましょう」
「なんで上からなんだ。まあいい、とにかく入れ」
「わーい。師匠大好き」
「もう少し可愛げのある言い方をしろ」
「それができるならパーティーから追い出されたりはしません」
「自覚があるなら直せ」
よし、とにかく宿はなんとかなった。あとはこれからの事を考えるとしよう。このままじゃあここも追い出されてしまう。
「「ああ、世の中のなんと非常な事か」とでも思っているんだろう。その性格と怠惰をまず直さんことには、また同じことになるだろうな」
読心術だ。わが師匠ながら趣味が悪い。
「長年の付き合いからの予想だ。お前が人の性格にケチをつけるな。そんな権利はない」
ひどい話だ。
「とにかく、部屋はそのままにしてはあるからそこを使え。飯は自分でどうにかするかうちの手伝いをしろ。ただではやらんからな」
どうやら今日の夕飯は抜きになってしまうらしい。仕方ない。明日の朝は庭の薬草に水やりでもしておこう。……起きれたらの話だが。
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