2070年11月29日

 その夜オンラインゲームのグループチャットで、ぼくは自分のAIチルドレンと出会った衝撃について話していた。ゲーム内の大ボスの一角、神龍を狩るための作戦会議中だった。


「……てなわけで、ぼくのAIチルドレンは引きこもり不良ギャルだった」


「天罰だな。貧民を見下すから悪い」


 Borgは言った。


「しかもさっそく男を連れ込むし……」


「お盛んだねえ」


「Alanくん、大丈夫ですか?」


 Moriさんが言った。


「もう、どう接していいかわからないです」


「……えっと悩みがあれば聞いてあげるとか?」


「いや、部屋に閉じこもって、入ってくるな、の一点張りで」


「そんなん、家から追い出しゃいいんだよ」


 Borgが吐き捨てるように言った。今日のBorgはいつにもまして不機嫌だった。10秒おきにため息をつき、5秒おきに舌打ちする。


「Borg君、今日は狂犬ぶりに磨きがかかってますね」


 Moriさんは言った。


「リアルの方でムカついてんだよ。介護報酬が改定されたの知ってんだろ?」


「はい。たしかまた減額されたとか。これで10年連続ですね」


「なめてるよな。こんだけ身を粉にして働いてんのに」


「難しい問題ですね……」


 AIチルドレンの選挙権が認められてから、高齢者福祉のような「未来につながらない」産業は、軽視される傾向にあった。


「ってなわけで来週の日曜、おれたち介護士が集まって、新宿でデモするんだよ。おまえらも来い。オフ会だ」


「いや、公務員は政治活動できないんで……」


「マジかよ。Alanは?」


「ぼくは……宮崎だし」


 BorgとMoriさんは東京住みだけど、ぼくは日本屈指の田舎で孤立しているのだ。


「宮崎でもリニアで来れるだろ。金あるんだから来てくれよ」


 そのときMoriさんが口を挟んだ。


「Borg君、お金持ちはお金を使わないからお金持ちなんだよ」

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