第5話 小さな冒険者を見守り隊隊長(グレイソン)

 城塞都市には様々な人がいる。長年勤める冒険者組合はその人々の中でも訳ありが多い。訳ありの程度は様々で、純粋に荒っぽくて定職につけない奴もいれば、子どもが小さくてアルバイトの為にという主婦もいる。規約で犯罪者はNGだが、元犯罪者や元山賊はよくいる。その多くは改心し更生した者やカタギと結婚して落ち着いた奥さんの尻に敷かれた者だ。

 今、受付で僕の事をウルウルと見上げているこの子も訳ありの一人だ。今年で13歳とは思えないほど小柄。今も受付カウンターから顔の半分しか見えていない。

 依頼書を出す前に僕に耳打ちしようとした時には背伸びだけでは出来ず、飛び上がって小さな手をつき頑張って押し上げていた。

 冒険者は力仕事も多く、体格の良いものも多い。そいつら用に作られているので一般人にとっても、まぁまぁ大きいが、それすら通り越してこの子は小さいのだ。

 組合入口の扉も本来は胸ほどの位置から押して入るのだが、この子は少し屈むだけで下をくぐれてしまう。緑板だってこの少年の為に高さを減らして横長にし、資料室で余ったレール式の梯子を取り付けた。


 この組合の非公式冒険者ランキングで可愛い部門でNO.1を3年間獲り続けているだけある。NO.2は受付係人気の組合長の飼っているギガンテスロップのラビラビちゃん、NO.3が冒険者人気の受付のアイドル25歳18歳ブリギッテプリメラである事からも分かる通り。組合員のおじちゃん、おばちゃんはいつも頑張る子を応援しているのだ。


 僕そのうちの筆頭だ。そして、今、可愛い顔してとんでもない依頼書を取って自慢げにきたこの子について毅然きぜんと対応する為に全勢力を顔面の筋肉に注いでいる。

 賢く、礼儀正しく丁寧で、努力を忘れない。依頼はとんでもない物を持ってきたがこの子ならきっと大丈夫だという確信がある。

 しかし、全勢力を注がなくては僕の顔面はデレデレと崩壊しMr.ダンディの称号は永遠に失われるだろう。

 自分を選ぶ為に、この子には大きい椅子に座って30分も待っていてくれたのだ。

 脚をぷらぷらさせてじっと見るこの子の為に!空気を読まず並ぶ、むさ苦しい野郎どもは捌き、これから並ぼうとする阿呆にはモノクル越しにガンを飛ばし他の受付へ行かせ、察しつつも忙しい三人の子持ちの奥さんはにこやかに迎えつつも最速丁寧に終わらせた!


 仕事なので残念ながら、無駄話はせず手早く受付を終え、少しスキップしながら他の薬草は納品せず真っ直ぐ資料室へ向かうあの子の背中を少し崩れた表情で見守る。階段も大きいので気をつけながら上がってる…偉いねぇ…ッハ!いかん、いかん。

 よし…、途中こちらを見つめてきてあまりの尊さに一度、天を見上げるという失態は犯してしまったが、どうやらバレてないようなのでセーフだ、僕はMr.ダンディの称号を守り抜いた。グッジョブ、僕!


 少年は細い、小さい。いつもお腹が鳴っている、なのに雑貨屋店主見守り隊三番手からは腹しか膨らまないセッズ豆ばかり買うと聞く。

 栄養のある物を渡したいが、それは公私混同だ。しかし!依頼の都合で昼食をとる暇がないとなれば話は別。別のはずだ!

 あぁ、今すぐ妻のマーサに速達を送り栄養価たっぷりの食事を早急に手配しておかねば!今からの用意は不可能だが、屋台は開いている。


 僕は少年が資料で夢中になっている間に、全ての根回しする為に足早に受付を後にした。


 

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