第4話 城塞都市冒険者組合
転んで
少し豪華な馬車は貴族や商人が乗っていることが多い。下手に追い越すと
今日はどうやら行商の幌馬車がほとんどの様でラッキーだ。護衛の冒険者や馬を驚かせない様に出来るだけ端を通り過ぎる。
大きな城門には沢山の人が並んでいる。住民や冒険者以外はここで止められ、入門証を提示、荷物検査を受けなくてはならない。
自分は冒険者だし、住民なので横の小さい門から入る。
「やぁ、今日は随分早いね。お弁当でも忘れたか?ん?」
「いえ、ちょっと足の早い物が罠にあったので昼は後にして来たんです。」
「そうかそうか、頑張れよボウズ!」
馴染みの門番の
立派な城門と城壁を抜けて少し駆ければ街のシンボル、大噴水がある。その両極に大きくそびえる無骨な横長の建物と優美な縦長の建物が
もちろん無骨な方が組合である。
組合の両開きの扉をくぐる。朝に
組合には大まかに三つの役割がある。
どれもが富を産み、世の中の役に立っている。
依頼は登録料金と達成時の報酬を支払えば誰もが出来るが、全ての依頼が冒険者によって達成されているわけではない。
条件が良いものや割りに合うものから選び取られる。達成条件に期限を設けても、掲載期限は基本ない。
一度組合で受領されれば条件の期限を過ぎていても、取り下げない限りずっと掲載可能だ。取り下げれば前納報酬は全て、登録料は一部返還される。
ちなみに、最古の依頼は建国以前からあるとかないとか…まぁ、巨大迷宮の踏破や蘇生薬のレシピ、さらに浮かぶ星などがそれに当たるらしい。登録料は一律だが達成報酬は前納が基本のはず。これらはどうなのだろうか…。
冒険者は依頼を受付にて受領。条件を達成したら組合に報告。そして組合の口座に入金される。
簡単3段階の手続きだがどれかが欠ければ無駄働きだ。
その点素材の買取は
珍しい物も買い取ってはくれるが、市場の平均価格もしくはオークションにかけて後日入金になるので即金なら依頼の物を見つけた方が良い。
質の良いものを求める依頼があれば、そちらの方が断然稼げる。掲示板チェックは冒険者の日課だ。
組合には採取と雑用、護衛と討伐の4つの
自分はいつも緑板依頼しか受けられない。成人した冒険者のみが受付から左側奥にいける。受付の左すぐに食堂と奥に酒場があり、受付と食堂間には柵、食堂と酒場間には壁はあるが公衆浴場のように天井付近で空間が繋がっている。いつもガヤガヤとしていて、たまに皿の割れる音や歓声が聞こえる。
後2年の辛抱で自分は酒場のさらに奥の壁にある赤板の依頼を受けられる。それまでに貯金して現状から抜け出さなくてはと考えてはいたが思ったより早くそのチャンスが巡ってきた。
やっと見つけたお目当ての日焼けしたいかにも古そうな依頼書を下に引き、破り取る。いつか見た内容を見直して間違いないか確認する。
*****
《龍魔草一本分の完全納品》
依頼No.000g52390
期限:依頼者が生きている限り
報酬:納品物の状態による。最大報酬は金300とし、最低の場合は鑑定料分とする。前納分は鑑定料のみ。報酬は状態により納品から3日以内に組合口座へ追納。
条件:龍魔草の花、葉、茎、根が完全に揃った状態で適切な処理がなされ採取から3日以内である事。
組合の上位鑑定士による特別鑑定書付きである事。
(鑑定料は報酬より差し引かれるが上記条件が完全に達成されていた場合、差し引かれた分は報酬に上乗せして依頼者が支払う)
※達成者が採取方法や採取場所、経緯の情報を納品した場合追加報酬を支払う。ただし、情報の納品先は組合ではなく依頼者本人とし、個室にて第三者立会の元、真実判定をし真と判定された場合のみ納品達成とする。
その際、納品した情報を無闇に第三者に伝えられない魔法契約を交わす事とする。
登録者 城塞都市コウトゥス 組合 採取部
依頼者 コウトゥス辺境伯5代目当主 及びその子孫
*****
よし、これで依頼者が死んでおらず報酬支払い能力が残っていれば、しばらくは飢えないし、道具も揃えても余裕がある暮らしを送れるだろう。小さくても
受付の中で最もベテランの人が空いて、後ろに誰もいないタイミングを見計らう。
モノクルが似合う組合のMr.ダンディ…グレイソンさん…略してグレイさん。初級鑑定もでき、組合長の昔馴染み…らしい。組合の中でも年長者で確か偉い人だ。
女の受付係の方が人気はあるがちょっと噂好きなので依頼によって達成報告の人を選ぶ事も大切だ、と酔っ払いの大人に聞いた。
「おや、今日は早いね。外で何かあったのかい?」
女性だったら仕事とは知っていてもロマンスが勘違いで始まりそうな、イケナイ甘い声と微笑み。でも、自分からは小さい頃から知っている親戚のおじさんが飴を渡そうとしている様に見える。不思議だ。
でも、大きな声を出されても困るので自分の肩程にあるカウンターに少し身を乗り出して
「…珍しい薬草が採れて……こちらの依頼の達成報告に来ました。ここではなく、別室にて鑑定と依頼者へのアポイントをお願いします…。」
「ふふっ、はい、お疲れ様。」
子ども扱い……大丈夫だろうか、でも、Mr.ダンディ、グレイさんなら察してくれるはず。
他の人に見られないように折り畳んだ依頼書を素早く渡して乗り出した身を戻す。
「さて、早速依頼書の確認をっ…?!これ……依頼書の取り、間違い…ではなさそうだが、最悪タダ働き、いや鑑定料支払うことになるかもしれないが…大丈夫か。」
「はい、でも、大丈夫だと思います。」
じっとグレイさんと睨めっこをする。虚偽の依頼達成報告には
「んー…わかった、では3階資料室A3の棚までおいでなさい。依頼者と鑑定担当者に知らせてくる。それまで他の採取物の納品をしてきなさい。昼食は私が用意するから1時間後に資料室へ、わかったね?」
勝った、グレイさんも睨めっこに疲れたのかモノクルを外して目頭を揉んでいる。でも自分が勝ったのだ!しかも、昼食は
「はい、わかりました。依頼者がまだ生きているかは調査しなくて良いんですか?」
「あぁ、有名人でね、ご本人は他界しているが家族が継続して依頼者になっている。多忙な人だから代理人がくるだろう。」
「……礼儀作法の本でも読んでおきます。」
「はは、あって損はないがなくても問題ない。組合員も立ち会うし、冒険者に期待する方が間違っているよ。でも、君はもともと礼儀正しい子だから大丈夫。納品の準備だけしておいてくれ。」
「わかりました。あ、お昼はお肉があると良いです。」
「あぁ、分かったよ食いしん坊さん。」
納品している場合じゃなくなってしまった。朝に採った他の薬草は自分用にして資料室で礼儀作法の本を探そう。
思わず階段を飛び跳ねながら上りそうになってしまった。内緒の依頼書の納品だったと気づけたので、変なぬるい目で見てきたグレイさんには感謝しとこう。お昼はおかわりもして、たらふく食べるけど…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます