ヒュウイ様と東へ・・・『あと少しの辛抱』
「新入り!あんたもそろそろお相手しなさいよ。ね?」
部屋にやって来た遊女のような女がそう言い放った。
この城ではたくさんの女が暮らし、ヒュウイ様の側室と呼ばれる女達はヒュウイ様ではなくその兄弟や重鎮の夜の相手をしていた。
「あの……私は西や東の城におりました。故に、政に関わるような方のお相手などしてはならないと、存じますが」
「なにさっあんたがそんなに高級だって言いたいの?あたしたちは雑魚?ちょっとヒュウイ様に優しくされたら偉そうに」
女は私の腕を掴みあげ、橋がかかった扉へと向かう。
この部屋は橋がかけられた時だけ行き来ができる離れであった。
海を下に見ながら橋を渡る。
すると、向こう側で立つのはヒュウイ様。
「何をしているんだ?許可なくセリの部屋へ誰が橋をかけた?」
「ヒュウイ様!皆がこの者だけぬくぬくと暮らすのが癪に障ると言いまして……仕方なく説得していました」
「勝手なことをするな。セリはそなたらとは立場が違う。セリは私のものなんだから。」
「……え?ヒュウイ様、この女が?!それは……どのような意味でしょうか?」
「そなたらには用は無い。セリ、今から東へ参る。大事な会合なんだ。共に行こう、君を残すのは心許ない」
女はフンッと怒りその場を去った。
「東へ、青の国ですか?」
「その顔は……嬉しい?でも私は君を離さない。いいね?君は私のものだよ」
とヒュウイ様は調子よく声を弾ませ私の腰に手を回す。
「なんて華奢な……ちゃんと食べてる?」
私が弱々しければ抱かないと言った。だから、毎日出される食事は死なない程にだけ口にしている。
「あ、あのヒュウイ様っ私はあなた様のものにはなれません」
「なら、どうすればなれる?サンサに許しを乞えば良いかな?」
「サンサ様……」
「……サンサは女嫌い。女の一人二人に固執などしないだろう。女というものに無縁な男さ。心配ない」
心配ない……。けれど神託に余命が関わるとなると話は別では?万が一私が神託による妃だったとしたら……いや、真の妃はマリ?そんな話をうかつに他国の君主に言ってはならない。おとなしくヒュウイ様にお供し東へ向かうことにしよう。
「こちらへ来る時は何故木箱に?これからは私が守ってあげる。安心して、セリ。此度は馬車を用意したんだ。さあおいで」
「あ、私は皆と一緒に荷台に乗ります」
「駄目だ。こんなに可愛らしい女が荷台におれば奇襲を受ける。君は私の隣に、さあ おいで」
馬車の中、ヒュウイ様は完璧にこちらを向いたまま、終始私の髪を撫でてみたり肩をさすり、手を握る。
どうか どうかこれ以上触れないで下さい……。
「私に触れられたくない?どうしてそんなに愛らしい……口づけをしたい……」
「え?あの、ヒュウイ様 お話しましょう お話を」
「分かったよ。セリ、君は恋をしたことはある?」
「恋……はい。叶わぬ恋はそれなりにしました」
「はあ……神よ。私と巡り合わせる為の痛みを与えたのだね。もう大丈夫。君には私がいる」
「あ いえ そ」
「セリ、君は青の国で、妃として居たのか?」
「……はい。姿を消した姉と間違われ、代わりにおりました」
「……なるほど。ならばサンサは君をどう扱った?優しくした?それとも冷たくした?」
どうだろうか……サンサ様は冷たい。けれど優しくない訳ではない。もしかしたら優しい。
常に冷静で必要なことだけに力を注ぐようなおひと。見返りに優しくしたり、甘い言葉を囁きそうにもない。
「サンサ様は……真っ直ぐで立派な方だと存じます」
「…………」
ヒュウイ様は急に黙り込み、こちらをじっと笑う事無く肘置きに肘を立て頬杖をついて見ていた。
「少し考え事をしたい。膝をかりるよ」
「えっあの……」
ヒュウイ様は私の膝に頭を乗せた。困りきった私を下から見上げ淡々と言う。
「どうしたの?じゃあ君が私の膝で眠る?」
「いえ」
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