やはり偽物か(サンサ視点)
「突っ立ってないでお茶くらい入れてちょうだい」
女官に指図するセリにじろりと視線を運び問うてみる。
「茶ぐらい自分で入れぬのか?急須を傾けるだけだ。お前はまたおかしくなった」
「あら?私がおかしいですって?ただ記憶を取り戻しただけ。サンサ、あなたを救わなければなりません……あなたの元を去った私が馬鹿でした。」
突然記憶が戻ったというセリが得意げに語る。ベッドで足を組みこちらを首を傾げながら見て手招きする。
「なんの真似だ?」
明らかにおかしい。こんな急にふくよかになるはずが無い。物言いも目つきも……汚らわしい。
「サンサ こちらへ来て。私が癒やしてさしあげますわ」
「何故 急に体つきが変わる?何故 急に私の好まぬ女に戻った?」
「……好まぬ……記憶の無かった私を愛したのですか?サンサ」
「愛したか?誰かを愛して何になる……。では聞こう。川での出来事は覚えておるか?」
「川……ああ 私がおにぎりを作り川辺で食べましたね」
「それだけか?」
「緑のキノンで、馬に乗りました」
「お前も食べたか?」
「はい」
「そうか、普通のおにぎりか?」
「ええ。どうしてそんな話を?あの時はどうかしていて、あまりはっきりとは覚えていないので……」
おにぎりでは無くあの時セリはおむすびと言った。川に落ちたおむすびを食べたとは言わぬこの女は……やはり別人だ。
「では、ここを去って何処で何をしていた?」
「まあサンサ、そんなに私の事を気にかけてくれるのですね。私の居場所は南にはない……。やはり、私の居るべき場所はあなたの隣だと気付いたのです。けれど何故か城へつく頃には記憶を失った。何かおかしな物を食べたのかしら……」
「は、南で相手にされず出戻ったわけか。私が贈った首飾りは?」
「これ、ちゃんとつけていますわ。翡翠の腕輪も」
遺産を委ねると聞き戻ったな。
得意げに見せるセリを部屋に残し、外へ出る。
また入れ替わった別人だとすればもう一人はどこへ……あの大きな木箱……。
タイガを訪ねようと歩いていると、騒がしい話し声がする。
「どうして私に相談もせずに!!今頃セリ様は酷い目に……南への貢物など……好きに体を遊ばれて……あああ タオ!あんたを頼った私が馬鹿だった!あんたなんか!地獄へ落ちろ!!!」
「カヤ 声が大きいわ。マリ様に言われてはどうしようもない……南で上手く生きてもらうしかない。あのセリ様なら大丈夫。会う人会う人に好かれるでしょう」
「好かれるなら厄介でしょーがっ!本物はセリ様なのに!殿下の神託の相手はセリ様なのに!あんたはマリ様に脅され、殿下もこの国をも滅ぼす道を選んだんじゃーっ!!!」
「ちょっと落ち着いて、カヤ。あなたがずっとセリ様を支えてきたのは分かる。けれど今更……全てが嘘だったと言えと?元からマリ様が嘘をついてきたからこうなった。マリ様だって奥様に言われ仕方なくセリ様を名乗った。昔捨てられた妹のフリをさせられただけで……あなたが急にセリ様を連れてきたからややこしくなったのよ」
「マリ様がなんでまた戻って来たんだよ!!あんただって、ほんとはセリ様が殿下の側にいるのを願ったんだろ?私はセリ様が捨てられた時、旦那様に頼まれてサルマまで連れて行った。不自由しないように、立派に育つように見守った。だけどあんたは何してた?!あの奥様に媚び諂って今やマリ様の手下みたいな役回りじゃないか!!教育係とはよべんね!」
「仕方ないじゃない!マリ様は性根が腐ってるからよ!!」
なんだこの二人の女は……やかましい。話が全て筒抜けだ。つまり、あの弱々しく控えめな娘が本来のセリ。その姉が、以前からいたマリと言う名か。
神託では、城下町の貴族カロの娘 セリだと名指しされた。既にセリは西のミラクの妃となっていたということか?セリに成り済まし我が妃となったのは、姉であり偽物。
ならば、本物を取り戻さなければ。今、南へ送られたと言っていた。南……ヒュウイ……。
とりあえず女二人は放っておきタイガの部屋を訪ねる。
「サンサ殿下!何かありましたか?」
「頼んだセリの生い立ちは分かったか?」
「はい。今まとめていました。少々頭がこんがらがりまして。えー、まず、セリ様には双子の姉がおり、名はマリ。二人を産んだ後すぐに母は亡くなり、父は後妻を迎えた。後妻が双子を育て上げる自信が無いと懇願し、体が弱くいつも父が気にかけていた娘を捨てたがった。それがセリ様。
実際は父の知り合いである、国境のサルマに暮らす一家へそっと預けられ、十八になる頃東の
「そうか……マリは?姉はどう生きてきた?」
「マリという娘は、サンサ殿下がセリ様として妃にした娘で間違いないでしょう。神託がくだり、城下は盛り上がり、義理母はセリを捨ててしまった事を後悔し、マリにセリと名乗るよう言いつけた。自分の子を授からなかった義理母はマリを一人娘として溺愛していたそうです。世間体を気にし、贅沢に目がない義理母はマリを甘やかし金品を与えた。」
「ああ」
「驚かれないのですか?」
「先ほどタオとカヤが騒いでおった。大声でな。セリとマリ、あの二人は顔は似ていても全く違う。で、今居るのはマリだ。どうやらあの日大きな木箱の贈り物の中身はセリであったようだ」
「え?!え?!!なんということ……ではどうしますか?えっ」
「ん。南にいるセリを呼び戻すには南の王 ヒュウイを何とかせねば……。皆を呼び全てを明らかにする。このままマリが偽れば神託に背く事になる」
「神託に背かぬ為ですか?」
「何が言いたい?」
「殿下は本物のセリ様と居られた時……いつもより穏やかでした」
「ああ……そうか。穏やかになれば良いのか?」
「え」
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