南の国ヒュウイ様?・・・『ちょっと勢いが強いのですが』

「な!?何ということだっ!!おぉぉぉ 可哀想に」

「…………?!」


 覗き込んできた男は目を見開き頭に金の小さな飾りを乗せ、薄茶色くつぶらな瞳をパチパチしている。

 誰だろうか……聞きたいが口を開く前に気を失うようにまた眠ってしまった。



 ◇



「姫よ、目は覚めたかな?」


 気が付くとお花のようないい香りに包まれてベッドに眠っていた。その隣で扇子をパタパタさせ私をあおぎながら、先ほどのあのつぶらな瞳をした人がこちらをみている。


「……はい。あの、こちらはどこですか……?」

 と部屋を見渡しながらあることに気づいた。やけにすべすべ……スースーする。私は衣を身に着けていないようで、つるつるした布を被されていただけである。


「あ!」

 慌ててその白い布を掴み体に当てる。


「君はセイの国から私への貢物……でしょ?しかしセリによく似ている」

 と満面の笑みを向けるその男。


「衣は替えを用意している。心配しないで、そんなに弱った君をどうにもできるわけが無い。貢物……とセリは言ったが……君を見たらもっと大切に扱うことにした。だから安心して」


「セリ……とは私の姉でしょうか?」


「そう!君たちは幼いころから離れ離れ。可哀想な姉妹。セリは裕福に育ち、君は……。君の弱々しい姿に、この胸は高鳴った……私の側にいて欲しい。名はなんという?」


「あ……あの、私がセリなのです。その……あなた様はもしや……」


「私は、あけの国王 ヒュウイだ。君がセリとは……?」

「朱……南…………ヒュウイ様……」


 本当に南の国まで……来てしまったのだ……。


「君の姉は突然セイの国へ帰ると言い出した。偽物の妃に乗っ取られるからと。せっかく私の側に居たいと言ったがあくまで取り巻きの一人としたのが気に入らなかったのかな。容姿はまあ美しいが……私の心を炎のごとく燃やす女では無かった。しかし、君は違う……一目見た瞬間にこの胸は朱く燃え上がったよ……セリ 君をセリと呼ぼう。ならばあのもう一人は誰なのか……?」


 あああ なんという勢いでしょうか……。


「あの、ヒュウイ様 私には何もありません。側になんて置くほどの者ではございません。」

 私は全裸に布一枚でベッドから語りかける。一国の王に対して立ち上がり跪くべきだろうが今はどうしようもない。


「私はそういった事は気にしない。この胸が熱くなるかならぬかだけが大事なことだよ」


 ヒュウイ様は得意げに肩下で切り揃えた栗色の髪をさっと払った。


「失礼いたします。着替えをお持ちいたしました」

「私がもらおう」


 赤い衣を手にこちらへ歩み寄るヒュウイ様は「さっその布を」と手を出す。

「え?!あ あの私が自分で着ますので」


 と言ったのに、パッと布を取り払われ私のすべてが露わとなった。初な乙女では無いけれどこんなに光が差し込む部屋で恥ずかしい。

 縮こまり手で隠す私を微笑みながら見つめて

「うん……愛らしい」

 と呟いて頭を撫でられ、着替えを渡された。



 ヒュウイ様が部屋を出たのを確認し赤い衣を着てみる。何故かお腹周りだけが開いた体に張り付くような衣。へそを隠しながら部屋の扉を開けてみる。


「わっ」


 そこは扉では無く窓?!下はすぐ海だった。ああ驚いた。ヒュウイ様はたしかにこの扉から出て行かれた…………どうやって出るの?!

 カヤさんは?

 今度はここで……どうすれば……。どうしていつも籠の中に入ってしまうのだろうか。ふと、下に広がる海を見て足がすくむ。こんなに世界は広いのに……私には何も出来ない……。サンサ様はどうしているだろうか。

 そんな風に青く深い海を改めて見渡すと涙が頬を伝った。



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