神託と余命僅かな?冷たい殿下・・・『わたくしには背負えません』
「あの、は 初めましてではなく……私の事はご存知で?」
部屋の天蓋付きベッドにせっせと布を貼る女官の娘に声をかける。まっすぐコシのある黒髪を一つに結んだ女の子。
するとピクッとしこちらを向き直立不動で小さな声を出した。
「……はいっ。どうかお許しを セリ様。ご挨拶もせずに、いえ私のような者がご挨拶など。女官のメイでごさいます。」
初々しいメイの姿に昔の自分を思い起こす。あの頃に戻れたらいいのに……。
「メイ、宜しくお願いします。それありがとうございますっ手伝います」
「ひぇっ?!あ はい。しかしお気持ちだけで、ありがとうございます。」
「……あ はい」
メイは大層怯えた様子。セリという王妃はいったいどんな人……?私はいつまでこのお役目をすれば良いのだろうか。
またタオさんがやって来た。
人払いをし、焦げ茶色の机を挟み年季の入った値打ちの有りそうな彫刻が施された椅子に腰掛けて向き合う。
「あの、やはり私には無理かと……。王妃のセリ様はどのような方ですか?」
「神託によりこの国の守護神のようにセリ様を大事にするよう言われました。サンサ殿下はそれを信じ大切にしようとしていましたが、まあ少し扱いにくいセリ様に振り回され、殿下は心労が重なった為か、神託により余命宣告を受けたのです。それを聞いたセリ様は殿下を見捨て姿を消しました。」
「……その神託って当たりますか?」
「はっなんと無礼な」
「ああ 失礼しました……」
こわい……釣り上がった目の奥はぐいっと見開いた。東の国では神託は絶対なのか。西の商人や平民の占いやくじとはわけが違うらしい。
「ですから、殿下に尽くしていただきたいのです。そうすればきっと、余命宣告は取り消されるのではないかと思うのです。」
そういった彼女は少しだけ目尻を下げる。サンサ殿下を心配しているのは確かなようでその顔は悲しみに曇っていた。
「尽くす……あの、私は第一本人ではありませんし、神託に背いては不味いのでは?そりゃ、お力になりたいのは山々です。しかし あ」
また厳しい顔がこちらを向く、下げた目尻はまたすっかり上がっていた。
「西から追い出され、カヤと共に生き抜く場所を探していたのでしょう?」
「ああ はい」
「余命宣告が無くなれば、お役目はおわりです。」
「無くならなければ?」
「無くならなければ、殿下はお亡くなりになります。いずれにしても終わりでございます。」
「…………」
「あっ、では、本物の王妃様がお戻りになられたら……」
「そんなことは……無いでしょう」
「さて、少し歩きましょうか?城内を案内します故」
「はい。ありがとうございます」
「セリ様、貴女はいつもそのような物の言い方を?」
「え?いけませんか?」
「いえ。柔らかくて良いでしょう」
笑うことは無いだろうと思えたタオさんが少し口元を緩めた。
赤い橋を渡り下の池に泳ぐ鯉を眺める。まさかまた城で過ごすなんて、そこの妃の代わりだとは……打首にはなりたくない。
「ここにいらしたか。セリ様」
橋を歩いてきたのは、トラのような男だった。王様と勘違いしたあの野生的な男。
「はい。あの……」
「ああ、先ほどはご無礼を。悪戯が過ぎましたか。俺はサンサ殿下の側近、タイガでございます」
「タ タイガー?!」
「なんですか?ほら、殿下はあちらで弓を射ておられる。行ってはいかがですか?」
「あ はい……では」
「あははは 大丈夫ですよ。貴女を射はせんでしょう」
弓場では黒の衣、深い青の羽織に身を包んだサンサ殿下が背を向け力いっぱい弓を引いている。
「あ、あの」
パーンッ
的の真ん中に矢が刺さる。お見事!と声をかけそうになるも殿下の凍てつくような空気にそんな声は場違いだと私でもわかる。
「射てみよ」
サンサ殿下は私に弓を差し出した。女子供も戦に駆り出す西の国では弓も学んだけれど、本物の王妃様は弓の腕前は……?私はとりあえず構える。
じっとこちらを見るサンサ殿下は相変わらず冷めた目をしている。
パーンッ
私の放った矢も殿下の矢のすぐ隣へ刺さった。
「……見事だ」
「あの、殿下は狩りに行かれるのですか?」
「狩りも行くが、もっぱら実践で人を射た数のほうが勝るだろうか。これは訓練故、邪魔だ」
「あ……失礼いたしました」
やっぱり、ほらっトラ男……いえタイガ様は気軽に持ちかけてくださったが、邪魔だと言われたではないですか……。
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