逃げた王妃の代わり?・・・『あの、無理ですが打ち首も嫌でございます』
王の間でひとり呆然としていたらカヤさんが慌ただしくやって来て声を抑えながらも興奮冷めやらぬ様子で早口で語りだした。
「まず、神託により選ばれここのサンサ殿下に輿入れしたセリ様が、セリ様にそっくりだと!」
「あああ、う で、私と何が関係ありましょう?」
「は?ああ、そっくりである理由があるのです。」
「え?」
「セリ様には双子の姉君がおられます。」
「は?は 初耳です」
「ええ……その方はセリという名では無く、マリ様です。何故セリの名で妃になった?のか?もうっわかりませぬ。兎に角この城の皆はあなたをセリ様、つまり逃げた妃だと信じております。」
「で、では違うといいましょう。」
「だ、誰が信じましょう」
「え……」
私は田舎の母には拾われたと聞いていた。いわゆる捨て子。しかし大して不自由なく人の子として育てられ、不自由だったのは奉公にあがった後ミラク殿下のそばに置かれてからだった。幼少の記憶は……暗く狭い部屋だけおぼろげに覚えている。双子の姉や生みの親など覚えていない。
「セリ様失礼いたします。カヤ、ちょっと」
カヤさんはカヤさんより更に目がつり上がるほどに髪をピタリと結い上げ西と似たような長くふわりとした黒い衣を着た女に連れて行かれた。
ああカヤさんが居ないと……どうしよう。
違う部屋へ女官に連れられ入り、しばらくすると先ほどの女が戻る。
厳しい顔の彼女がふわりと衣を靡かせ入ってきた。目が釣り上がる程にぴしりと結った団子頭を下げる。
私もつられて深々と頭を下げた。
「貴女は、只今よりここの王妃、セリ様です」
「……は?はい?」
「申し遅れました。私はタオです。貴女はセリ様としてここに居ていただきます。」
「あの……」
「女を寄せ付けない殿下が神託により唯一認めた王妃です。しかし、姿を消しました故。貴女に代わりを務めていただきます。記憶を無くした王妃セリ様としてなら出来ますね?」
「いや、あの……状況がいまいち……」
「貴女は名前だけでなくお姿もよく似ています。さ、詳しいことはおいおい。身支度をしましょう。時間がありませぬ。すぐに皆が騒ぎます故。」
一切笑わなさそうなタオさんと女官にされるがまま、裾に泥が跳ねくたくたの黒い衣を脱ぎ、地まで着きそうな白い衣を着、腰紐を結ぶ。意味があるのか分からない薄手の透けたような水色の長く袖の無い羽織を重ね、白粉をぱたぱたはたき紅を指す。うーん顔がパキパキする。
「少々痩せてはいますが……そっくりです。髪はいつ洗われました?」
「ああっと、三日……いえもっと前です」
「では今宵、湯あみしましょう」
長い髪は念入りにつげの櫛が通るまで梳かれ、紐で緩く縛り、頭を揺らすとシャランと金属がぶつかる音がする。そして女官が香を炊く。私、そんな臭いのだろうか。
「それから!」
「あぁっ驚いた」
「私とカヤ以外の者に、貴女が本物ではないと決して言ってはなりません。言えば虚偽の罪で私もろとも打首。」
「う 打首?!は はい。肝に命じます」
タオさんが出ていきしばらく着飾った鏡台の中の自分と見つめ合う。はあ……どうしよう。もうさっぱり……。やっぱり断ろうか……私が見ず知らずの姉だか王妃の代わりなんて出来るわけがない。
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