第5話 期待はずれの転校生の話
「アレン君は、えーじゃああそこの席に着いてもらおうか」
先生は大講義室の上から3段目の列の1番窓際を指さした。
その席の周りの生徒達の顔に少し緊張が走るのがわかった。
「初めまして! これからよろしくお願いします! 」
僕は隣の席の女の子に元気よく挨拶をした。
してみた。
「あ、よ、よろしくお願いします。レイナです。」
青い髪の隙間から目元が少し見える。
伏し目がちで澄んだ緑色の瞳をしていた。
多分この人は肺に魔力重心(魔力が多く流れる場所)がある人なのだろう。
僕が席に着くために近づいたとき、微かに呼吸が乱れていた。
体型は細身で色白、体の重心は後ろで消極的で受け身な印象。
適性魔法は範囲攻撃系の魔法、属性は土か水って感じだろうか。
僕がぼんやりとそんなことを考えていると―
「あ、あのアレン君」
レイナさんが話しかけてきた。
「え、あっなんですか? 」
「何か、1組の人が来てます… 」
何だか騒がしさを感じ、教室の入口に目をやると数人の生徒が言い争いをしていた。
「カイルっ! てめぇらここに何しに気やがった!? 」
そう言っているのは、さっきの血の気の多そうな男子生徒だった。
カイルと呼ばれた男子生徒はそんな言葉諸共せず涼しい顔で立っていた。
「ダノン、そんなに牙を剥くなよ。せっかく僕達みたいな天上人がこんな下界に来てあげたのだから、みんなもっと歓迎するべきではないか? 」
ダノンのことを鼻で笑いながら、カイルは取り巻きたちを一瞥する。
「君たちもそう思うだろ? 」
取り巻きたちもニヤニヤと笑いカイルの言葉に同意する。
「この掃き溜めに、興味深いものが入ったと聞いてね、呼んできて貰えるかな? 僕はゴミの区別がつかないからね 」
「はぁ!? あの転校生をなんで俺が」
ダノンは腕を組みしかめつらを浮かべる。
するとカイルは少し驚いた様子でダノンをみて、何か納得したかのようにやれやれと首を振る。
「そうか、下々の者はこんな重要なことさえ知らされないのか… なんと嘆かわしい」
そう言って手で顔を覆うがその指の隙間から覗く瞳は確実に、ダノンをバカにしていた。
「だからなんなんだよ!? あの転校生が何だってんだ!? 」
ダノンは今にも手が出そうな勢いで憤る。
「その転校生の後ろだてはあのヴァルナダ様らしいのだ」
その瞬間クラスメイトはどよめく。
それは驚きというか、ありえないというような感じだった。
「ヴァルナダ様… だと? 」
ダノンはキッと僕の方をむくと、大きな足音を鳴らしながら近づいてきた。
レイナさんは席を立ち、代わりにダノンが座る。
「おい、それはホントか? 」
質問と言うより脅しに近い問いかけ方だ。
「う、うん、まぁ? 」
僕は軽く上目遣いでダノンの様子を伺いながら答える。
別に嘘をつく必要もないし、ヴァルナダさんからも言っちゃいけないなんて言われてない。
するとダノンは僕の首根っこを掴み、引っ張る。
「い、痛い痛い! 」
僕は悪さした猫のように連行されていた。
「ヴァルナダ様は歴史上ただ1人の魔王城まで到達した大英雄だ。そんな人が認めるヤツがこのクラスに来たってのか… 」
クラスメイト達はヒソヒソと話している。
それは信じられないという声もあったが、どこか期待をしているような感じもあった。
そんな期待も少し背負った僕はカイルの前へ放り投げられる。
「ほらよ、コイツが噂の転校生だ」
「どうもぉ〜」
僕は愛想笑いを浮かべながらカイル達に挨拶する。
「んー? ホントにこいつか? 」
カイルは訝しげに僕を見つめる。
品定めされているようだ。
そして
「まさか… 」
と呟くと
「スキル《アカラキ》」
と唱えた。
カイルの目が青く光る。
そのスキルは相手の意志問わず強制的にステータスを開示させることが出来る。
味方にもそのステータスは見えるので、戦いの際はまず対策をしておかなきゃならない厄介なスキルだ。
まぁ、僕はしてないんだけど。
「ップ! ハハハハハ! 」
カイルは堰を切ったようにように笑い出す
「見ろよコイツ! スキルも魔力も空白だぞ! 最初はフェイクをしていのかと思ったが、フェイクはステータスをわからせない代わりにフェイクをしているということが分かるようになっている。だがコイツのステータスからはそれを感じないつまり―」
「コイツはホントに魔力もスキルも0…… 」
ダノンがカイルの言葉を繋ぐ。
クラスからもガッカリしたような、嘆くような声がチラホラと聞こえてくる。
「ちっ! やっぱり嘘かよ。 期待させやがって! お前も落ちこぼれじゃないか」
ダノンはそう言って軽く僕を蹴った。
「はぁ、なんて無駄な時間を過ごしてしまったのだろうか。僕達は国から必要とされる人材。そんな価値ある人間の時間を奪ったことは万死に値する。今度の対抗戦楽しみにしておくといいさ」
「お前!? 」
ダノンは歯を食いしばりカイルを見つめる。
「なんだその目は、あーそういばハンナさんは元気かな? ん? あ、そうか事故で怪我をして学校をやめてしまったんだっけか」
カイルは白々しい態度そう言う。
「あれはお前らが、対抗戦の時に―」
「何だ? 」
カイルに睨まれて、ダノンは黙ってしまう。
「では、また対抗戦で精々そこの新しく入ってきたゴミと仲良くするといいさ」
そう言ってカイル達は去っていった。
〈あとがき〉
昨日は更新できなくて申し訳ありません!
次の投稿は月曜日です!
投稿時間は20時です!
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