49話
俺たちがソファに座ってから数分くらい経っただろうか。
いきなりガチャリと扉が開いて、俺たちの視線が一気にそちらの方向へと向いた。
「遅れてすまん」
言いながら、王様は部屋へと入ってきた。
一気に背筋が伸びる。二度目の邂逅だったが、緊張感はさほど変わっていなかった。
咄嗟に、挨拶をせねばと立ち上がろうとすると。
「いや、いい」
彼は手を振って、俺を静止する。
「それよりも、早く話を進めよう」
「は、はい」
戸惑う俺をよそに、彼は向かい側のソファに腰掛けた。
王様はただ座っているだけなんだけど、どこかこう威厳を感じるというか。
感じたことのない圧にビビっている俺はさておいて、フィオネさんが話を切り出した。
「だね。んじゃ早速だけど」
その一言を境に、フィオネさんの纏う空気が変わったような気がした。
彼女の表情に、さっきほどの気楽さは感じ取れない。
「魔王が復活した。その報告とマサヒトくんの顔を見せに、こうしてやってきたってわけ」
「……ふむ」
一瞬、目を見開いた後。
王様は少し俯いて、すぐに視線を戻した。
「フィオネが嘘を言うことなんて無いだろうし、本当なんだろうな」
「まあね」
随分サクッと受け入れるんだな。
よっぽどフィオネさんが信用されているということだろうか。まあ、元々早い段階から王様に話をしていたってフィオネさんが言ってたから、受け入れやすかったのだろうか。
王様は深くため息をつく。
「まさかこうなるとはな。なぜ復活したのかは?」
「ごめんけど分からない。ただ、精剣が最近になって一気に見つかってるのと因果関係があるかもってのは、マサヒトくんと話したね」
「そうか」
どういう風にこの話を受け止めているのだろう?
ふと、思った。王様とはつまり、この国を治めている一番偉い人なわけで。その国に、昔訪れた災厄がまた起きようとしている。
その心の内を推し量ることは難しい。彼の表情は、どこか苦悶に満ちているように見えた。
「詳しいことはマサヒトくんが話すよ」
「そうか」
王様は頷くと。
「……そういえば、まだお互いに挨拶をしていなかったな」
はたと気づいたように、そう言った。
「俺はライオット。知っているとは思うが、この国を治めている王だ」
「えと。保坂雅仁です。隣に居るのは精剣で……それも含めて、諸々のお話をさせて頂きに来ました」
できるだけ失礼に当たらないように……!
最大限の注意をはらいながら、言葉を選んで口にする。
「今日はよろしくお願いします」
俺が頭を下げると、その横で、精剣たちも同じように頭を下げた。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
そう言って、王様は手を差し出す。
「ライオットでいい。お前は呼び捨てでも構わないか?」
「え゛っ……!?」
王様を名前で呼ぶとかハードル高いとかの次元じゃないんですけど!?
無理ですと言いたい気持ちをなんとか抑え込んで、平静を保ちつつ話す。
「いやもう、好きなように呼んでいただければ」
「そうか」
王様――もといライオットさんは立ち上がって、俺の方へと手を差し出す。
「よろしく頼む、マサヒト」
「いやっ、はい! こ、こちらこそよろしくお願いします……!!」
俺も速攻で、魔物と戦っているときと同等かもはやそれよりも早いくらいの速度でソファから立ち上がり、差し出されたその手を握る。いや、握らせていただく。
手汗大丈夫か!? 不敬にあたったりしない……!?
俺は必死にペコペコと頭を下げながら、王様と挨拶を交わしたのだった。
あれから、俺たちは話をした。
といっても、基本的には俺が一方的にフィオネさんとギルドで話をした時と同じような内容のことをそのまま喋って、王様――じゃなくてライオットさんが聞いているという感じだったんだけど。
まず初めは、白百合達精剣との挨拶から始まり。実際に精剣になっているところを目の前で見せて、信じてもらって。
魔王と戦ったこと。死にかけたこと。フィオネさんが助けに来てくれたこと。黒百合と呼ばれる精剣を持っていたこと。
彼が俺に次は殺すと発言して、魔法で去っていったこと。
魔王が現れた原因について。また、その対処について考えねばならないと、フィオネさんと話し合ったこと。
その全てを、ライオットさんはただ黙って聞いていた。
「……そうか」
思いつく全てを話し終えた俺に、ライオットさんは一言そう言うと。
「まずは、謝らせてほしい。申し訳ない」
彼はなぜか、頭を下げた。
王様が、一般人でしかない俺に対して頭を下げたのだ。めちゃくちゃビビってしまって変な声がでかける。
「い、いや、謝ることは何も無かったと思います!」
「そうじゃない。今から俺がマサヒトに言う事、その全てに対しての謝罪だ」
「……え?」
ライオットさんが頭を上げる。
その目はまっすぐ俺を捉えていて。
「魔王について、またその対処法についても、現時点では俺に答えられることはほとんど無い」
「……えっと」
思わず、言葉に詰まる。
「それは、どういう」
「答えたくないとか、王としての立場どうこうとかでは無く、単に分からないんだ」
ライオットさんはただ、困惑しているようだった。
「以前フィオネから話を聞いた際、まさかと思ってこちら側でも魔王について色々と調べたんだ。だが、どんな手を使っても出てくるのは勇者の冒険譚だったり、それに準ずる情報ばかり。魔王が復活するという予兆は、何一つ発見できなかった」
「……そうだったんですか」
「魔王城も、実は前に一度調べたんだ。だが何一つおかしな点は無く、至って普通のただの廃墟だった。だから、考えすぎだろうと結論づけた」
そうだったのか。
初めて知る事実に、俺は驚きを隠せなかった。
それはつまり、一つの国が全力で調査した上で問題がないと判断をしたということだ。
調査が適当だった――という邪推も出来なくはないけど、それを考えたところで何も生まれないだろう。ここは信じるのが妥当だ。
「だが実際のところ魔王が現れた。……もう一度聞きたいんだが、それは間違いなく魔王だったんだな?」
「はい。……というか、実際に以前戦ったことがある精剣達がそう言っているので」
俺が目線を向ければ、白百合はこくりと頷く。
「間違いなく、魔王。忘れるわけがない」
「見間違えとかではないと思います。私達精剣の間でも、間違いないよねって話になっているので」
アサツキさんも、それに同意するように頷いていた。
「そうか。強いて言うなら……精剣が見つかり始めたこととの因果関係は俺も気になるが、如何せん情報が何もない」
「そうですか……」
思わず、肩を落としてしまう。
現状、魔王対策についての頼みの綱はライオットさんだけだ。何もわからないのであれば仕方はないのだけども、やっぱりこれからの事を考えると……。
俺たちだけで何か策を練るか? それとも、ライオットさんがそこら辺協力してくれたりするだろうか。
会話の途中にも関わらず、俺が一人で考え込んでいると。
「だが」
ライオットさんは人差し指を立て、真剣な表情で言う。
彼の目は、誠実に、まっすぐに俺を捉えていた。
「一つだけ、君たちにとって役に立つであろう情報がある」
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