47話
王城の眼前。
その巨大な体躯に見合った大きさの扉の前には、二人の兵士が立っていた。
銀色の鎧を身に纏って、その手には彼らの背丈ほどある大きな槍を持っていた。二人は俺たちに気づくと、警戒するような素振りとともに目線を向けてくる。
何もしていないとはいえ、怖い。普通に。
「君たち、すまないが許可証を……」
そう言いかけて。
「えっ、フィオネ様!?」
「やーやー、どうもどうも」
そう言って、軽く手を振るフィオネさん。
フィオネさんを見た途端にその警戒は驚きへと変わったようで、彼らは戸惑いの声を上げていた。
「申し訳ありません、王都に帰ってこられるとは聞いていませんでしたので」
「ごめんね、連絡する暇もなくて」
どうやら王城を守る兵士にすら顔が利くらしい。
フィオネさん、ちょっとすごすぎない? いやすごいというか、顔が広すぎるというか。
「そちらの方々は?」
兵士たちは俺たちの方をちらりと見ると、訝しげな様子でそう聞いてくる。
見たこともねえやつが来たぞ? みたいな感じなのかな。知らんけど。
「諸事情あってね。通れないかな?」
「いえ、構いませんが……」
迷っているような様子を見せつつも、どうやら通してはくれるみたいだ。
うん、とフィオネさんは頷くと、俺たちの方へと振り返る。
「ついてきてね」
「あ、はい!」
俺が頷くのを確認してから、彼女はまた歩き始める。
俺も、兵士の人たちに軽く頭を下げてから、フィオネさんについて歩き出した。
鎧を纏った二人の間を通り抜けて、閉まっている大きな扉へと近づいていく。金属質で重そうな、高級そうな見た目の扉。いや、扉に高級そうって感想はおかしいんだけど。
その扉の目の前まで行くと、フィオネさんが扉に手をついた。
「《――――》」
フィオネさんが、何か言った。
というのも、距離は結構近いのに、フィオネさんの口が動いているだけで何を言ってるのかが全く聞こえなかったのだ。
よく見ると、フィオネさんが触れている扉の部分に魔法陣が浮かび上がっていた。
「……あれは、隠蔽魔法だと思う」
俺の様子を見て察してくれたらしいリオが近くまできて、俺の耳元でこそっと呟いた。
隠蔽魔法。魔法事態の仕組みやらなんやらは全くもってさっぱりだけど、その言葉のニュアンスからなんとなく読み取ることはできる。
「きっと、何か合言葉でもあって、それを隠しているんだと思う」
合言葉を喋っているから、隠蔽魔法を使って自分が話している音を消す……みたいな感じかな?
「へえ……」
魔法ってすげー。
リオの教えに一人で感動していると、やるべきことが終わったようで、フィオネさんが扉から手を話した。
途端に、扉がするすると開いていく。
あんなに重そうだった金属の扉が、音も立てずにひとりでに動いている。自動ドア超巨大魔法バージョンって感じだ。
……頭悪すぎる例え方だな俺。
「さ、行くよ」
完全に扉が開ききると、臆すること無くフィオネさんはすぐにその中へと入っていく。
俺も遅れるわけにはいかないと足を早めた。ちらっと後ろを見ると、みんなも同じように俺の後をついてきている。
そうして俺たちは、王城へと足を踏み入れた。
「……やば」
小さく、声を漏らしてしまう。
目の前に広がるのは、赤い高級そうな絨毯が敷かれた長い長い廊下。いや、これは廊下といっていいのだろうか? もはや道くらい長いし横幅でかいんだけど。
壁には数々のそれっぽい絵画が並べられていて、上を見上げれば豪華絢爛なシャンデリアが廊下にそっていくつも吊り下げられている。よく見れば、床も大理石のようなものでできていて、キラキラと光を反射して輝いていた。見える範囲にいくつか階段があるけど、それも同じような素材で作られているように見える。
「なんだこれ……」
「やっぱりすごいわね」
小声で、俺とアサツキさんがほぼ同時くらいに呟いた。
白百合とリオも、声こそ出していないがアサツキさんと似たような反応をしている。
なんだろうな。俺、完全に場違いな気がするんだけど。俺が普段見てきたものと、水準が五百周りくらい違う気がするんですけど。
自分でも意味の分からない感想を脳内で整理していたら、どこからか男の人が現れた。
「フィオネ様、ようこそいらっしゃいました」
黒いタキシードを身に纏った男。ある程度歳を取っているようだったが、口元にある髭とその顔立ちや風貌から、かっこいい印象を受けるような人だった。
彼は優雅に見えるような所作で頭を下げると、俺たちへと歩み寄ってきた。
「そちらの方々は?」
「ちょっと私用でね。ライオットは居る?」
ライオット、という名に聞き覚えのない俺たちは思わず首を捻ってしまうが。
「ええ、王なら広間にいらっしゃいます」
つまり、ライオットという人は王様というわけか。
……え、今フィオネさん王様のこと呼び捨てにした?
「なら広間にお邪魔するね」
「ええ。他の者には私から伝えておきましょう」
「助かるよ。ありがとう、レイ」
レイ。そういう名前らしい男が、一礼してから去っていく。
フィオネさんはまた、着いてこいとジェスチャーをしてから歩き出した。長い長い、真っ赤な絨毯が敷かれた廊下を、俺たちも一緒について歩く。
……いや、王様のこと呼び捨てにしてるのやばすぎるでしょ。
衝撃が抜けきれない俺は隣を歩くリオに目線を向けた。
「…………」
彼女と目があった。
言わんとしていることがなんとなく伝わってきて、俺はまた目線を前へと戻す。
……フィオネさん、ほんとに大物って感じが節々から伝わってくるな。
場内には案外、というべきなのかは分からないが、そこそこの人が居て何度かすれ違った。
といっても、その人達はみんなメイド服のような白黒かつロングスカートの服を着ていて、恐らくメイドとかそういう存在なんだろうなあと察することができる。
この世界にもメイドっぽい概念が存在することに、驚きと感動が半々くらいだ。
……なんて思いながら、よそ見しつつ歩いていると。
「ここだね」
そう言って、フィオネさんは立ち止まった。
目の前には両開きの白いドアがあった。金色のポールのようなものが縦にくっついていて、全体に流れるような金色の装飾がなされている。
それに手を掛けると、フィオネさんはこちらへと振り返った。
「準備はいい?」
そうは言うが、ドアに手をかけているということは待つつもりも対して無いということなのでは?
まあ、俺も今更待ってください、なんて言うつもりもないけど。こんだけ時間があったから、流石に多少は心の準備もできている。
とはいえ別に緊張していないとかドキドキしていないとかそういうわけではなくて、実はフィオネさんが立ち止まった時点からなんか心臓がバクバクしているんだけど。
だってしょうがないだろ、王様に会うんだぞ!?
誰に言い訳をしているんだ、俺は。ともかくとして緊張してはいるわけだ。かなり。
「はい、大丈夫です」
白百合やリオ、アサツキさんもこくりと頷いて同意する。
「おっけー。それじゃ、できるだけ自然体でね。そんなに緊張しないでいいから」
「……それは、中々厳しいですね」
「大丈夫大丈夫。会えば分かるよ、彼は結構普通の人だからさ」
そう言って、フィオネさんは扉をぐいと押した。
それなりに重さのありそうな扉が、彼女の手に押されてゆっくりと開いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます