34話
三人が階段を登っていって。
完全にその姿が見えなくなると、俺はギルドの受付へと足を進めた。
「戻りました」
声をかけるのは、昇格クエストを出してくれた張本人の金髪のお姉さん。
なにか書類を見ていたようで受付で俯いていた彼女は、俺の声に反応して顔を上げる。
「あ、おかえりなさい。クエストはどうでしたか?」
「いい感じに終わりました」
聞かれて、そう答えながら俺は、腰に下げていた剣状態のアサツキさんを手に取る。
ダンジョンから出たアイテムを一つ持ってくればクエストが完了する、とお姉さんは言っていたはずだ。精剣ではあるもののアサツキさんはダンジョンから出てきたので、一応そういう扱いになると思うんだが……。
「少しお預かりしますね」
お姉さんはそう言うと、俺の手からアサツキさんを受け取った。
じっくりとアサツキさんを眺めるお姉さんの目には、薄っすらと魔法陣が浮かんでいるように見える。前にも見た光景だな、多分魔法を使ってなにかを確認してるんだろう。
少しの間があいて、お姉さんはこくりと頷いた。
「うん、きちんとダンジョンから出たアイテムのようですね」
その発言に、俺はほっと胸を撫で下ろす。
良かった。これで昇格クエストは達成したはずだ。ここまでちょっと長い道のりだったけど、無事達成できてほんとに良かった……。
お姉さんは俺にアサツキさんを返すと、ぱちぱちと拍手をしてくれる。
「それでは、マサヒトさんの冒険者ランクは一つ上昇です。おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます……!」
これで、俺の冒険者ランクはC。
つまるところ、魔王城に行くことができるようになったというわけだ。なんか感慨深いな。
「今日はゆっくり身を休めて下さいね。お疲れ様でした」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
お姉さんがかけてくれる優しい言葉に心が暖かくなりつつ。俺は軽く頭を下げて、受付から離れた。
さて。
一旦宿に戻ってから、今後のことについて話し合うことにしよう。
宿に戻れば、もう特に気にするものもない。
精剣達は人状態に戻ってから、三人で同じベッドに座り込み、しばらく話を弾ませていた。
とはいっても、さっきダンジョンの中でしていた話を、その場に居なかったリオにもう一度している感じだったので、俺も特に口を挟んだりはしなかったけど。
「宝箱から出てきたアサツキを見た時、刀の外見が物凄く似てたからもしかしたらって思ったけど……」
「まさか、本当にアサツキだとは思わなかった」
「まあ、そうよねえ」
「まさかダンジョンにいるなんて思わないから、マスターに言うのを躊躇っちゃったのよ。それが良かったのか悪かったのかは、ちょっと分からないけどね……」
白百合は、基本黙って二人の会話を聞いていて偶に口を挟む程度だった。が、彼女の表情からは嬉しいという感情が滲み出ていて、何かこう、こっちまで嬉しくなっちゃうな。
そのままの流れで、話は俺たちのことに移る。
大まかな出来事をリオが説明してくれて、そこに俺たちが補足を入れる感じで。
「それで、マスターと私は冒険者になった」
「ああ、そこでギルドマスターのフィオネさんと出会ったりして……」
白百合と出会ったところから、冒険者になって、リオに出会うまでの話をする。
特筆すべきことは何もない、ただの雑談。
でも、これが貴重で素晴らしい時間なのだということが、視界に移る白百合の嬉しそうな表情を見ると強く感じてしまう。
「私は、森の中で出会って――」
リオと出会った時の話は、リオが主体となって進んでいった。
フィオネさんに教えてもらって森に行って、リオを見つけて。そんでゴーレムにリベンジをしたのだ。
「あの火力には流石にビビったよ俺は」
「ま、一端の精剣として当然ってもんよね」
リオも、どこか楽しげに話をする。やはり長年会えていなかった仲間との再会というのは、リオにとっても嬉しい事柄であることは間違いなさそうだった。
白百合とリオが再開したときも、二人とも嬉しそうだったな。
「そうだったのね。それで?」
「だから、冒険者ランクを上げないといけないって流れになって――」
それに。
話を聞くアサツキさんも、顔がほころんでいる。
うんうんと頷きながら相槌を打ち、楽しそうに話を聞いている彼女にどこか母性的ななにかを感じたのは俺だけなんだろうか?
「つまり」
アサツキさんは話を聞き終わると。
「次の目標は、魔王城に行ってみるってことでいいのかしら」
「ですね」
俺は頷く。
俺たちは、魔王城に行くために冒険者ランクを上げていた。魔王城近辺には冒険者ランクがC以上でないと入れないからだ。
だがその目標は無事達成できて、俺はもう冒険者ランクがC。
つまるところ、魔王城を見に行けるというわけだな。
「さっきも言った通り、私が提案したんだけど」
リオが、自身の胸に手を当てて言う。
「アサツキも、それでいいかしら?」
そういや、彼女の同意も必要だよな。
いやまさか、こんな風に精剣が見つかるとは思ってなかったからすっぽりと頭から抜けていたけど。彼女はもしかしたら魔王城に行きたくないかもしれない。
とか思っていた俺の心配を他所に。
「ええ、問題ないわよ。私も、数百年経った後の魔王城を見てみたいし」
「やった。それじゃ、明日は魔王城を見に行きましょう!」
リオは嬉しそうにそう言うと、俺達の方へと向き直って。
「マスターと白百合は、それで大丈夫?」
「ああ、勿論。行けるなら早く行こうぜ」
「私も、大丈夫」
俺と白百合も勿論同意。反対する理由とか全く無いしな。
「それじゃ、今日は早く寝ましょ。明日に備えて英気を養わなくちゃ」
そう言うリオに、またもや反対意見は特になし。
俺も、流石に今日は疲れた。肉体的な疲労は精剣の特殊能力的なあれのおかげで特に無いんだけど、いかんせん精神の疲労がな。
あんなバカでかいやつと戦うのなんて初めての経験だったし、パーティメンバーと一緒にダンジョンに挑むのも初めてだった。何もかも初めてづくしの一日に流石に疲労困憊すぎる。
「そんじゃ俺はこっちで寝るから、三人はそっちで……」
いつもの通り、男女で別れようとした俺に、アサツキさんが。
「寝るのは問題ないんだけれど、マスター」
「え、どうしました?」
俺が問えば、アサツキは今も座っているベッドを見下ろして。
「ちょっと、三人じゃ狭いんじゃないかしら」
「あー…………」
確かに。
三人で共有するにしては、ベッドが狭すぎる気がしないでもない。というか確実に小さい。確実に誰か一人が犠牲になり地面へと叩きつけられるに違いない。
「……誰かが、マスターと一緒に寝る?」
アサツキさんの一言に、俺の全身がびくりと反応する。
「いやいやいや! 流石にそれはあれなんで! 俺は床で寝るんで、三人でベッド使ってください!」
嫌というわけでは断じて、断じて無いのだが、俺にはしっかりと倫理観というのが備わっているのだ。白百合と一緒に寝てたよねとかもう知らんから。忘れたから俺は。
俺がそう言えば、アサツキさんはふふっと笑みを零して。
「紳士ね、マスターさんは」
……今回は、えっちとか言われなくてよかったな。
リオと初めて宿に泊った時のことを思い出して、俺はそんなことを思った。
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