27話

 腰に精剣を収めていると、ニコラさんが斧を背にしまいながら。

「マサヒト、お前一撃で倒せるなんて凄いな。俺たちじゃ何発も打ち込まないと倒せないのに」

 彼に言われて思い返せば、確かに、彼らは何回も攻撃して敵を倒していた。

 といっても微々たる差だと思うけど。

「あ、ありがとうございます」

「スキル無しで冒険者やってる人ってそうそう居ないし、やっぱり規格外なのかしらね?」

 ソラさんも、そんな事を言って俺を持ち上げてくる。

 やめてくれ。なんか居心地が悪い。気分が悪いとかいうわけじゃないんだけど、ただ単になんというか……なんというか。

「ソラさんは、戦闘には介入しないんですか?」

 俺が選んだ選択肢は、強制的に話を変える手段。

 まあ、ちょっと気になっていることだったし。さっきの戦闘には、ソラさんは加わっていなかった。

「いや、するわよ。ただ、さっきの戦闘で魔法を使ったら、近距離でゴブリンと戦っているあなた達にも当たりかねないでしょ?」

「あ、なるほど」

 言われてみれば、それもそうか。この世界はファンタジー感溢れるRPG的世界だが、ゲームのように都合よく魔法が敵に当たることはないのだ。

 パーティでやってると、そういうことにも気を使わないといけないんだな。

「皆さん、話し合いは一旦お預けで。こちらの話からしましょうか」

 と、リリックさんが俺たちを呼ぶ。なんだろうと視線を向ければ、そこには。

「あれって……」

「お、宝箱落ちてるじゃね―か」

 ニコラさんの言葉に、俺は確信を得る。

 やっぱあれ、宝箱だよな。どう考えてもそれにしか見えない造形だから、目を疑いかけた。

 なんだろう、これぞ宝箱だぞ! って主張するかのようなスタンダードな見た目の宝箱だ。見た感じ木で出来てるっぽいから、あんまりレアなやつじゃないっぽい?

「一番低レアなやつだな。マサヒトはそこらの知識あるか?」

「いや、ないです。すいません」

「いいんだよ。宝箱は単純に見た目でレア度が分かってだな、こいつみたいな木材の宝箱が一番下、その上が銀、その上が金って感じだ。勿論、上が出れば出るほど嬉しい」

「なるほど。ありがとうございます」

 オーソドックスって言ったらあれだが、まあ、シンプルな感じの見分け方だな。これなら俺でも簡単にわかりそうだ。

 丁寧に教えてくれるニコラさんに頭を下げつつ。

 三人で、宝箱の方へと向かう。

「ゴブリンから宝箱が出るってのはツイてるな。まあ、木だけど」

「こら、贅沢言わない」

 ニコラさんの発言に、ソラさんは彼を杖で軽くこづく。仲いいな、あの人達。

 というか。

 宝箱が出てくるとは聞いていたけど、まさかこういう感じだとは思わなかった。もっと、地べたに置いてあるもんだと。魔物から出てくることもあるんだな。

「宝箱って、魔物から出てくるんですね」

 俺が心境をそのまま口に出すと、ニコラさんは微妙な表情。

「いや、まあ出ることはあるんだが、そう多くはないな。強い魔物を倒せば出やすいっぽいが、ゴブリンみたいな雑魚で宝箱が出るのは相当ラッキーだ」

「というか、普通は地面にこう、置いてある感じですね。探索してると見つかるので、本来はそっちがメインです」

 宝箱は探索がメイン、魔物を倒して出すのはあんまりない、か。

 ありがたく、教えてもらったことはしっかりと覚えておこう。今後役に立つかもしれない。

「それじゃ」

 一人で、俺が二人の言葉を反芻していると、ニコラさんが話を仕切り直すかのように大きく声を張った。

「とりあえず、この宝箱は誰のものか、じゃんけんするとしよう」

 ……ん?

 一瞬耳を疑ったが、どうやら聞き間違いでは無いようで。

「よーし。やるわよー」

「腕がなりますね」

 ほか二人もやる気満々のようで、より困惑は増大していく。

「え、じゃんけんで決めるんですか?」

「宝箱を見つけたのは、パーティ全体の功績だからな。後腐れがないようにとか、不公平が起こらないように、俺たちはそういう風にやってるぜ」

 確かにそれはそうかもしれないけど。

 まあ、従おう。特に反対する気とかもないし。

 ここは一つ、真剣勝負で勝って宝箱を俺のものにしてやろうじゃないか。

 ……というか、この世界にもじゃんけんってあるんだな。

「それじゃ、行くぞ。じゃーんけーん……ぽん!」

 ニコラさんの掛け声に合わせて、俺たちは腕を振り、手を前方へと突き出す。

 俺が出したのは、グー。迷ったらこれだしときゃいいみたいなとこある。

 ニコラさんが出したのはグー。ソラさんもグー。そして、リリックさんがパー。

「くそ、負けたか」

「運が悪いわねー」

 勝者はリリックさんだ。彼は嬉しそうに目を細めると、宝箱の方へと身を屈めた。

「それでは、私がいただきますね。よいしょっ、と」

 ギギィ、と分かりやすい音が鳴って、宝箱がぱかりと口を開く。

 興味津々、と俺達が身を乗り出してその光景を見つめる中。リリックさんが宝箱の中に入っている物を取り出した。

 それは、めちゃくちゃ既視感のあるもの。金色で、丸くて、小さいやつ。それを一枚手に取ったリリックさんは、俺たちのほうに向けて見せてくれる。

「お、金貨じゃね―か」

 確か、これ一枚で10000Gだったはずだ。

 そこそこの額の臨時収入を、リリックさんはポケットにしまった。

「これは中々ありがたいですね。今度、なにか美味しいものでも食べに行くとします」

「良かったじゃねーか。使えないアイテムとかに比べりゃ、だいぶあたりなほうだ」

 最低レアの宝箱から10000Gも出てくるとか、かなり夢があるなこの世界。

 まあ、一クエストこなせば数万G貰えることもおかしくない冒険者という職業では、若干少なめな金額に思えないこともないのだが。

「それでは、先に進みましょうか」

 宝箱から視線を外し、立ち上がったリリックさんがそう言うと、ニコラさんも頷いて。

「そうだな。さっさと先行って、俺たちも宝を貰わねえと」

 俺も、頷いて同意を示す。ソラさんも同じように頷いた。

「それじゃあ、みんな気をつけて進みましょう」

 ソラさんの言葉を背に、俺たちはまた並んで歩き出した。

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