25話

 ギルドから出て、森の中をしばらく歩く。

 そうして森を抜けると、小さな町のような場所についた。

 彼ら曰く、ここはダンジョンを中心として栄えた、ある意味町のような場所だという。名称はミシックというらしい。

「ほら、あそこは武器屋だ。飯屋とか、宿もある」

 ニコラさんが言う通り、たくさんの施設が立ち並んでいて、そこを訪れる人達である程度賑わっていた。

 ダンジョンで稼いで、ここで暮らしていく人も居るという。

 観光気分で辺りを見回しながら、大通りを歩いていく。コンカドルくらい発展しているわけではないが、のどかで穏やかないいところだ。

 そうして歩みを進めれば、あっという間に目的地まで到着。

「ここから先が、ミシックの洞穴よ」

 ソラさんが、杖で前方を指す。

 そこは、広い洞窟のようになっていた。岩壁にぽつりと開いた口の中が、等間隔で設置された松明で明るく照らされているのが見える。

 危険、この先注意――なんて看板がいくつか立ち並んでおり、監視員のような人が立っているのは、やはりここが簡単に立ち入っていい場所ではないのだと、俺に忠告をしてくるようだった。

「そういや、少し話したいことがあったんだ」

 ニコラさんが立ち止まって、話し始める。

「俺たちは、まあ見ての通りだと思うが。俺が前衛、リリックも前衛、んでソラが後方から魔法で支援って感じでいつも戦ってる。俺たちは役割が決まってるが、マサヒトはどういう風に立ち回るつもりだ?」

 なるほど、陣形的な話だろうか。

 だとしたら、まあ後方から支援とかできないし、答えは一つしか無い。

「自分も前衛で戦いたいです。普段はそうやって戦ってるので」

 というか、接近しないと俺の場合何もできない。近づかなきゃ白百合の効果は使えないし、リオはそもそも当たらない。

 俺の言葉に頷くと、ニコラは。

「そうか。なら参考程度に、マサヒトのスキルを教えてくれ」

 スキルか。持ってたらなんか活用できたんだろうけど、俺はあいにく所持していないのだ。

「持ってないです」

 素直にそう答える。

 と。

「お前、スキル持ってないのか!?」

 ニコラが驚いたようにそう言うと、リリックさんとソラさんも同じように困惑気味に俺を見る。

「マサヒトくん、スキル無しでDランクまで来たの……?」

「相当剣の腕が達者なのですね……驚きました」

 え、なんだこの空気。

 予想外の反応に、俺のほうが困惑してしまう。スキル持ってないってそんな変なことなのか?

『マスター。大抵の冒険者はスキルを使って戦うのが普通だから、そんな大真面目に本当のこと言ったら怪しまれるわよ』

 脳内に響くリオの声に、思わず声を出してしまいそうになる。

 そんな大事なこともっと早く言ってくれ!!!!! 知らなかったんだけど!!!!!!

「い、いや……」

 訂正しようにも、もはやどうしようもない。

 だってスキルじゃなくて精剣で戦ってます! この剣に不思議な力が宿ってます! とか言えるわけないだろ。ここまで隠しておいて。前者は絶対ダメだし、後者も普通に怪しまれるはずだ。

「すげえな。期待のルーキーじゃねえか」

 ニコラさんの言葉に、俺は曖昧な笑みを浮かべるしか無い。

 なんかズルしてる気分になってきた。ここまで上がってこれたのは精剣パワーによるもので、俺自身の力は殆ど無いようなものなのに。

『マスター。フェンリルやスライムを倒したのは、明らかにマスターの実力だった。そんな風に思わなくてもいいと思う』

 俺の胸中を察して、白百合はそんな優しい言葉をかけてくれる。

 ありがとう白百合。慰めてくれてありがとう。でもその時勝てたのは、やっぱり白百合が居てくれたからなんだよ。

 ……まあ、ここで卑屈になっていても仕方ないよな。少なくともこの場では、俺はもう謎に強い人みたいな認定を受けてしまったんだから。

 いや、これ全然俺の力ですよ。みたいな顔をするしかもはや道は無いんだから。

「……あんまり、期待はしないでください」

「そんなに謙遜するなって。それじゃ、マサヒトも前衛で決定だな」

 過剰な期待を背負っている気がするが、もはや何も言うまい。俺にできるのは精剣を信じて戦うだけだ。

 ニコラさんの言葉に二人は頷いて、ダンジョンの方へと目線を移した。

「それでは、そろそろ行きましょうか」

 リリックさんがそう言って、ニコラさんとダンジョンに歩きだす。俺もその後ろから二人についていって、さらに俺の後ろをソラさんがついてくる。

 隊列を組んで、俺たちはダンジョンへと侵入していく。

 中は、そこそこの広さがあった。上も横も、戦闘に支障は無さそうなくらいには開けている。しばらくは下りになっていて、俺たちはダンジョンの中を降りていく。 

 コツコツ、と岩を踏んで歩く音が、静かな洞窟内に響いていて。どこか恐ろしげな雰囲気も漂っている。松明が等間隔で設置されているため、灯りには困らないものの、やはりどこか不安を感じてしまう。

 ダンジョン。

 創作の産物でしか無かったそれに、まさか俺が入ることになるなんて。感動とあと色々な感情が混ざり合ってなんとも言えない気持ちになりながら、俺は歩を進める。

 道中、数人の冒険者らしき人とすれ違いながら。少しすると、下り坂から平坦な道になった。少しといったが距離的にはだいぶ地下っぽい。

 そしてそこから先は、今までのように松明は設置されていなかった。灯りがなく真っ暗な光景を目の前に、俺はリオに手をかける。

 前洞窟に入ったときみたいに、リオで周りを照らすか。そう思った矢先、後ろに居たソラさんが。

「《ライト》」

 そう口にした途端、彼女の横に光の玉が現れる。

 ふよふよと浮いているそれはどうやら光源らしく、周りが一段と明るくなった。

 これ、魔法だよな。

 なるほど。こうやって、普段は探索してるんだな。すげえな魔法って……。

よくよく考えれば、こうやって冒険者が魔法を使うところを見るのは初めてかもしれない。

「こっから先、魔物が出るからな。気をつけろよ」

 ニコラさんが振り返ると、俺にそう言って注意を促してくれる。

「わかりました」

 俺が頷くと、ニコラさんは再び前を向いて歩き出す。

 気をつけなきゃな。どんなふうに魔物が出てくるのかは分かんないけど、とにかく戦う準備はしておかないと。

 俺は白百合とリオをすぐ抜けるようにと意識をしつつ、その後ろに続いた。

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