24話
腰に白百合とリオを下げて。
初めて入る場所に若干のドキドキを抱きながら、俺は階段を上がっていく。
一階と同じように、クエストボードと受付、そして上へと繋がる階段がある。大雑把に見た感じは、同じような光景だった。
さて。
とりあえず、パーティメンバーを見つけないといけないわけなのだが。肝心などうやって見つけるのかを俺は聞いていない。
何やってんだ俺。一応、お姉さんは、ここが集会場になってるからご利用くださいとは言っていたけど、どこをどうご利用すればいいんだ?
とりあえず受付へと歩く。こういうのは聞くのが一番だ。
「あの、ミシックの洞穴っていうダンジョンに行きたいんですけど」
受付に居た、金髪碧眼の綺麗な青年に、俺は声をかけてみる。
すっげえレベルのイケメンだな、なんて驚いてしまう程度にはかなりのイケメンだ。顔があまりに整いすぎている。
青年はにこやかに笑うと、俺へと向き直った。
「かしこまりました。それでは、パーティのマッチングを致しますので、カードをお見せいただいてもよろしいでしょうか?」
言われたとおりに、ポケットからカードを取り出して手渡す。
一通りそれを見た彼は、紙へと何かを書き込んでいく。多分、俺の情報を紙に移してるのかな?
「ありがとうございます。それでは、こちらはお返ししますね」
カードを受け取ってポケットにしまうと、彼は話を続ける。
「それでは、マッチングが終わり次第名前をお呼びしますので、この階にてお待ち下さい。うまくマッチングが行えなかった場合にも、お呼びいたしますね」
軽く頭を下げて、俺は受付から離れた。
なんか、とんとんと進んでしまった。まあ、なんか上手く言ってるしこれでいっか。
というか、俺はそれよりもマッチングという単語が非常に気になっているのだが。
ゲームとかで慣れ親しんだ単語。言葉の意味をそのまま受け取るのであれば、ギルド側で人を選定して、ミシックの洞穴に行きたいという人達を集めてくれるということなのだろうか。
……まあ、内部的にどうであれ、俺が今できることはここでしばらく待つことのみ。
適当なところに突っ立って、しばらくぼーっとして待つ。
『白百合って、ダンジョンには行ったことあった?』
『私は無い。リオ姉も?』
『私もないのよね。だからちょっと不安』
あ、二人共ダンジョンには行ったこと無いんだ。
脳内に響く声に対して、ギルドという公の場で返事をするわけにもいかずに、心のなかで呟く。
『まあ、流石に負けるなんてことは無いと思うけどね』
『マスターもリオ姉も私が守るから。だから安心して』
頼りがいのある白百合の声に、俺はなんとなく落ち着きを覚えてしまう。恐らくリオも同じような感情を持っているのだろう、
『ありがとう、白百合。私も頑張るわ』
もし人状態だったら、リオは白百合の頭を撫でているんだろうな。そう思うような優しい声色で言うリオ。
……俺も、暇だから会話に参加したいんだけど。流石にここで声をだすと、ただ一人でくっちゃべってるおかしな人になってしまうので流石に控えておこう。
そうして、頭の中に響く二人の会話を聞きながら、待つこと数分。
「ミシックの洞穴行きのマサヒト様、マッチングが終了しましたので受付までお願いします」
ギルド内に通った青年の大きな声に、完全にぼーっとしていた俺の体は一瞬びくっと跳ねてしまう。
なんとなく若干恥ずかしくなりながらもそそくさと受付へと向かうと、さっきの青年の他に、見知らぬ後ろ姿が三つあった。
あれがパーティメンバーってことだろうか? なんかドキドキしてきた。変なとこないかな、俺。
「マサヒト様。こちらが、今回のパーティメンバーとなります。皆さん、一律でDランクになりますね」
青年に名前を呼ばれるのと同時に、三人が振り返って俺を見る。
右から、男の人が二人に、女の人が一人。
右端にいるスキンヘッドの男の人が、豪快に笑った。背中には斧のような巨大な武器を背負っていて、そのかなりでかめな背丈に筋骨隆々な体つきと相まってかなりの重圧感を感じる。
「よう、お前が今回のパーティメンバーか?」
「マサヒトっていいます。よろしくお願いします」
「おうよ、俺はニコラってんだ。よろしく頼むぜ、マサヒト」
差し出された大きな手に、俺も手を合わせて握り返す。
なんか、直感でわかる。この人絶対パワータイプだろ。斧を一振りして敵を粉砕してそう。
「マサヒトさん、ですね。リリックと申します。よろしくお願いします」
隣にいた細身の男の人が、軽く会釈をして微笑む。腰くらいまで伸びた黒髪が印象的な人だ。
腰に細い剣……ゲームとかの知識から判断するに、レイピアだろうか? そんな感じの剣を腰に下げている。物腰柔らかな口調だし、変わっているもののどこか落ち着いた風貌から、少し安心感を感じた。
「私はソラ。よろしくね、マサヒトくん」
最後に、黒髪ショートカットの女性が俺に声をかけてくる。俺の拙い語彙力を駆使して形容するなら、綺麗系美人といったところだろうか。
手に持っている、恐らく杖なのだろう長細い棒の先端には、宝石のような石が付いている。この人は魔法を使って戦うのかな……?
冷たそうな見た目とは対照的に可愛らしい声と、優しい声色が印象に残る。
「お二人も、よろしくお願いします」
言って、俺は頭を下げる。
俺たちの顔合わせを見守っていた青年が、それではと口を開く。
「少し、説明をさせていただきますね。こちらの三人は普段『エスケープ』という名前の固定パーティを組んでいらっしゃいます。なので、全員が初対面ではないですので、ご安心ください」
あ、そうなんだ。
固定パーティ、か。この世界にはそういうのもあるんだな。
確かにゲームとかだと、いつも一緒にクエストや戦闘を行うメンバーがいるってのはおかしな話じゃない。まあこの世界はゲームではないのだけれども。
純粋に仕事仲間みたいな感覚なのかな。
「エスケープの皆様はミシックの洞穴をメインに活動されていますので、ミシックの洞穴にはかなり慣れていらっしゃいます。その点もご安心ください」
なるほど、既に経験者というわけか。なら俺みたいなぺーぺーでも安心だな。まあ、下手を打っても精剣パワーでどうにかなりそうだけど。
「お前、ミシックの洞穴には行ったことあるか?」
ニコラさんに聞かれて、俺は首を横に振る。
「いや、一回もないです。というか、ダンジョンに行くのも初めてで」
俺が言うと、三人は少し驚いたように。
「ダンジョンも初めてなのね」
「マジか? 俺たちも自分のことで必死だから、守ってやることとかできねえぜ。組んで早々悪いが、お前戦える自身はあんのか?」
当然の疑問かもな、と俺は心のなかでそう思う。
だって、命がかかってるんだ。俺からすれば白百合がいれば怪我なんてしないし、リオがいれば倒せる戦いでも。多分一般の冒険者なら、、相当に命を張った戦いなはずだ。
そんな中、戦えない人を連れていきたくはないと思っているんだろう。それは、正しいような気がした。
とはいえ。俺には精剣があるわけで。
「はい。少なくとも、最低限は戦えるつもりです」
大口をたたいてしまったような気もするけど。まあここまで言ってしまえば、後は覚悟を決めるだけだ。
ニコラは頷いて。
「よし。その言葉を信じるぜ」
そう言って、朗らかに笑う。
「私達も最低限サポートしますので、お互い頑張っていきましょう」
「期待してるわ」
三人は、俺の言葉を聞いてそんな風に言ってくれた。
なんか、だいぶ空気のいいパーティだな。この人達の期待に添えるように頑張らねば。
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