22話

「はい、確かに確認いたしました。クエスト達成です」

 俺が渡した魔力原石を手に持った金髪のお姉さんが、そう言って微笑む。

 差し出された報酬を受け取って、それをポケットに突っ込んだ。帰る道中も腰につけっぱなしだった二振りの精剣が、金属的な音を立てて揺れる。

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

 俺が問えば、お姉さんが頷いた。

「はい、大丈夫ですよ」

「すいません。えっと、冒険者ランクをCまで上げたいと思ってるんですけど、どれくらいクエストをこなしたらいいんですかね」

 具体的な指標があれば、それに沿ってクエストを選べばいいしな。

「そういえば、魔王城に行きたい、ってお話をされてましたね」

「ですね、それで気になった感じです」

 さっさとランク上げて魔王城に行きたい。俺が聞くと、金髪のお姉さんはしばし思考を巡らせてから口を開く。

「そうですね……」

 と、彼女が受付の下の方から取り出したのは、前にも見たことのある分厚い本。表紙には”冒険者の実績と冒険者ランクの折り合いの付け方大全”と書いてある。

 よほど頼りがいがあるのだろうその本をパラパラと、お姉さんは丁寧に捲っていく。

「カードを出していただけますか?」

「あ、はい」

 言われて、俺はカードを取り出す。カードというのはあれだ、冒険者ランクとかスキルとかが書き込まれているあれ。

 どういう仕組なのかは全くもって不明だが、ランクが上がれば勝手にカードに書き込まれた文字が変わっていくようで、俺のカードには今冒険者ランクがDであると書き込まれている。

 勿論、スキル欄は未だに空欄である。悲しいね……。なにか一つでもスキルとか貰えたっていいのに、そんな気配は微塵も感じられていなかった。

 悲哀に満ちた感情を胸にカードをお姉さんに渡す。と、手に取ったそれをじいっと見つめて。

「うーん……スキルが0ですもんね」

 ぐはっ。

 俺は被弾した。白百合でも守りきれないダメージがこの世にあるとは思わなかったよ。

「スキルは後天的にも獲得できるので、一つでも持っていればまた話は違うんですけど」

 なんとなく思っていたけど、スキルってのはやっぱり後からでも獲得できるらしい。んまあ、俺には一切関係のない話ではありそうだけども……。

「こうなると、やはり地道にクエストをクリアして実績を積み上げていくしか無さそうですね」

「具体的に言うと、どれくらいなんですかね」

「そうですね、大体5から10程度受けていただければ、内容も加味しても、昇格クエストを発行できるかなといった感じかなと……」

 5から10か。なるほどなあ……。

 中々に多い数だけど、まあ、普通にやってりゃすぐ終わりそうな数でもある。

「それって、魔物を何種類倒す、とかはないんですか?」

 ほら、某ゲームだと、何種類かのモンスターを倒すと昇格、みたいなシステムだし。

 ただクエストを受ければいいのか、同じような魔物を倒していればいいのかで色々と話が違って来そうな気がしている。

「そういうのは特に無いですね。ただ、弱めの魔物ばかり倒している方だと、やはり昇格はしづらくなってきますね」

 なるほど。これは強そうなやつにバンバン挑んだほうが良さそうだな。

 まあ、そりゃそうか。スライムばっか倒してる人が昇格できるかって言ったらできないだろうし。

 尤も、強そうとか弱そうとかの判断は白百合たちに任せることになるんだけど。とりあえず二人に聞いて、そんでそれを倒せばいいか。

「了解です。すいません、ありがとうございます」

 いいことを聞けた、と俺は頭を下げる。ありがとうお姉さん。色々と親切にしてくれて。

「いえ、これがお仕事ですから。何かわからないことがあったら、聞いてくださいね」

 そう言って柔らかく微笑む彼女に礼を言って、俺はその場を離れる。

 外を見れば、もう暗くなり始めていた。

 今からもう一クエストってのは難しいだろうな。一旦宿に戻るとしよう。








 次の日。

 いつものようにギルドに来た俺たちは、クエストボードを見上げていた。

「なに受けようかな……」

 強そうなやつって言っても、俺にはよくわかんないんだよな。せいぜい名前でこいつ強そうじゃね? みたいな憶測するしかない。

 例えば……そうだな、レッドタートルの討伐。必要冒険者ランクD。

 なんか名前強そうだし、いいんじゃね。という適当な考えで、俺は隣で同じようにクエストボードを見ている二人に声をかける。

「あれとかどうかな」

 俺が指さした方向を見て、二人は少し考えるそぶりをみせる。

「レッドタートル……どんな魔物だったかしら」

「ごめんなさいマスター、私は見たことがない」

「ああいや、全然いいんだよ。俺も知らないから聞いたわけだしさ」

 白百合にそう言いながら、俺はクエスト内容が書かれた紙を手に取る。

「まあ、とりあえず行ってみよう。相手がどうあれ、負けることはないだろうし」

 言えば、二人は頷いてくれる。

 紙を手に受付へと向かって、クエストを受注したい旨を伝えれば、すぐに受付は完了。

「それでは、お気をつけて下さいね」

 金髪のお姉さんの言葉を背に、俺たちはギルドを出た。

 目的地は、草原を抜けた先にあるらしい湖。草原というのは、俺がこの世界に来た時にいたところだ。スライムもいるので、少し注意をしておこう。

 少し先を、リオと白百合が仲良く二人で歩いている。その光景をなんとなく眺めながら、俺は歩く。

 とはいえ、俺ももうDランク。スライムごときには負けんやろ! がはは!

「ごはっ」

 突然、体に走る衝撃。

「ま、マスターっ!?」

 俺の声に何事かと振り向いた白百合が叫んで、こちらへと駆け寄ってくる。

 衝撃に呻きながら尻餅をついた俺の目の前には、水色の球体が。

 スライムだ。これ。ぜんっぜん気づかなかった。近くに居たのか、こいつ。

「潜んでたのね、気づかなかった……」

 リオが言いながら、腰に下げられた魔法書に手を当てていた。

 俺が自分の体へと目線を落とせば、幸いなことに特に怪我とかはしていないっぽい。相手がスライムで助かったってところか。

 リオが放つ魔法に燃やされていくスライムを見ながら。

 俺は、今後フラグを立てないようにしようと自戒するのだった。

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