21話
ゴブリンシャーマンは、俺に向けてか杖を突き出す。
「ギィ!」
ゴブリンシャーマンが叫ぶと、杖の先端に小さな魔法陣が現れて。その後すぐ、炎が弾けた。
だが、くるのがわかっていれば怖くない。白百合がいれば大丈夫だ、と俺は走る足を緩めない。
「よっ……!」
迫りくる炎に白百合の刀身を合わせて、横薙ぎに振るう。炎を真っ二つに裂いて打ち消すと、ゴブリンシャーマンは忌々しげに表情を曇らせた。
「ギィ――!!」
絶叫したゴブリンシャーマンが、続けざまに魔法陣を展開する。
一つ、二つ、三つと杖の先端に重ねられていく魔法陣から、三発の炎が連射されて飛び出してくる。だが、その炎はさっきと変わらない程度の威力だろう。俺は白百合に身を任せて腕を振るう。
「よっ、とっ!」
リズミカルに、三つの炎を叩き切っていく。炎の暖かさをほのかに感じながら、俺はさらに前方へと走る。
ゴブリンシャーマンとの距離はかなり近くなっていた。俺は右腕に意識を集中して、リオでゴブリンシャーマンへと切り込む。
「はあっ!」
豪炎を身にまとったリオの刀身が、ゴブリンシャーマンの体を焼き払う。
かなりの手応え。内心でガッツポーズをしつつ、俺は剣を振り抜いた。
「ギィアアアアッッ!!」
大きく声を上げたゴブリンシャーマンは、叫びながらも体が粒子となって消えていく。
決着は一瞬だったな。落ち着いていけばかなり楽に倒せてしまった。
「これで、後は……」
振り向けば、半分来られた棍棒を手に、こちらへと走ってくるゴブリンが。
「イイイィッッ!!」
叫びながら襲ってくるが、もう後ろからサポートしてくるゴブリンシャーマンは居ない。落ち着いて対処ができる。
「ギィアッ!!」
俺に向かって振り下ろされる棍棒を、白百合で受け止めて、弾く。
そうして無防備になったゴブリンに、俺は右腕を全力で振り下ろした。
「うおおおおっ!!!」
確かな手応えとともに、俺は剣を振り払う。
燃える刃でその体を断たれたゴブリンは、力なく地面に倒れ込んだ。
「ギィ……」
そして、さっきと同じように、体が粒子となって消えていく。
「よし……っ!」
俺の勝ちだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「なんとかなったな……途中どうなることかと思ったけど」
炎がこっちに飛んできた時はマジでビビった。白百合がいるから大丈夫なんだけど、やはり反射的には驚いてしまう。
ともあれ。
ここは、何事もなく戦闘を終えられたことに満足しておこう。
「二人もお疲れ様」
俺は言えば、脳内に二人の声が聞こえる。
『マスターこそ、お疲れ様』
『お疲れ、マスター』
二人の労いの言葉に心を休めつつ、俺はゴブリン達が消え去った後へと目線を移す。
その場には、なにやら緑色の石が残されていた。
「なんだこれ。宝石か……?」
リオの炎に照らされて、綺麗に輝いている。自然にありそうな石! みたいな見た目じゃなくて、整えられている綺麗に角張った形をしていた。
『それは魔力原石ね』
「魔力原石……?」
リオから言われた言葉に、オウム返しをしてしまう。
『魔力の塊、とでも言ったほうがいいかしら。色んな種類があって効果も様々なんだけど、恐らくこれは、ただの魔力の塊だと思う』
おーけー。とりあえず、魔力原石というものについては一旦理解したふりをしておこう。概要だけはなんとなくわかった。
けど魔力の塊ってなんだ? 魔力って個体になるのか?
俺の疑問を察してか、リオが説明をしてくれる。
『魔力の塊っていうのはね、簡単に言うと、魔力そのものなのよ』
「……なるほどね」
俺は分かったふりをした。
なんとなくわかるような気もするけど、分からないような気もするという謎のジレンマ。
『……本当にわかってる?』
「この際なんとなくで理解するから、とりあえず話を進めてくれ」
知識だけは頭に入れておこう。そんでなんとなーくわかったふりをしておこう。
俺が言えば、リオは話を続ける。
「まあ、マスターがそれでいいなら。……で、魔力っていうのはそもそも目に見えないものだけど、それを特殊な方法で、これみたいに原石にすることができるの」
なるほど。俺は頷いて相槌を打つ。
「その特殊な方法の一例っていうのが魔物を倒すことなんだけど、これも魔物の種類によって落としたり落とさなかったりするものでね……」
その後も続くリオの話を、俺なりに簡単に要約すれば。
魔力は特殊な方法で魔力原石に変えられる。魔力原石には種類があり、炎や水、風など魔法と同じように属性があるらしい。魔法に属性があるという話は始めて聞いたのでわりと驚いたのだが、その話はおいておこう。
で、その特殊な方法っていうものの一例が魔物を倒すことで、全ての魔物が落とす訳では無いがゴブリンは当てはまっていたと。
それで、この魔力原石を使えば、色々なものに魔力を付与したりとか、或いは魔力を回復させたりだとかいう、ある種電池などの動力源みたいな使い方ができるらしく。
彼女が言うには、お風呂などを沸かすのに炎の魔力原石を用いることもあるらしい。
「なるほどなあ……相当な便利アイテムってことか」
この世界の雰囲気からそこまで現代チックな感じはしなかったので、どうやってお風呂のお湯を沸かしているのかは気になっていたんだけど。
そういう感じでやってたんだなあ。ファンタジックを実感している。
『そ。それで、その魔力原石のことだけど。さっきも行った通りただの魔力の塊で、それには属性がついてないの』
「ほお』
『だから、単純に魔力の補給源にすることが多いわね。ただの魔力源でしか使い道がないから、他の魔力原石からはちょっと落ちるかしら』
つまるところ、電池(魔力バージョン)ってことか。
属性がついてないから、他の魔力原石とは違って属性が必要な用途には使用できないと。
……聞いといてなんだけど、俺には縁の無さそうな話だな。俺が魔法関連の事柄に手を出しているところは想像できない。
二つの魔力原石を拾って、俺はポケットにそれを突っ込む。
「まあ、それじゃ帰るか。ゴブリン倒せたし」
そうね。とリオ。白百合もわかったと同意してくれる。
んじゃ、帰るか。無事終わってよかった。
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