19話

「……魔王城??」

 思わず、オウム返しをしてしまう。

 魔王城って、あの魔王城だよな。話で聞く限り、どうやらこの街、コンカドルの近くにあるらしいあれ。

 リオや白百合にしてみれば因縁の場所だと思うんだけど、なんであんなところに行きたいのだろうか。

 俺が聞く前に、彼女は察したように口を開く。

「もう一度、見てみたいの。私達が戦った場所を」

 その言葉には、形容し難い重みを感じた。思わず、俺は押し黙ってしまう。

「別に、後悔があるとかじゃないの。私達が必死に戦った結果だから、悔いはない。それは前のマスターも、そう思ってるはずだわ」

 彼女の目は、灯りを灯している。

 暗い話をする気は無いようだった。

「ただ、本当に、単純に見てみたいだけ。せっかく近いんだしね。それに、もしかしたらなにか精剣に関する情報を得られるかもしれないし」

「まあ、それに関しては一理あると思うけど」

 うーん……まあ、これ俺が渋る話でもないしなあ。

 リオ本人が行きたいと言ってるんだし、断る理由も特にない。

 ただ、一つ。

「白百合はどうだ? 行っても、平気か?」

 白百合へと視線を移せば、彼女はこともなげに頷いて見せる。

「私は大丈夫」

 白百合からも、特に拒否反応みたいなのは見られない。

 なんか、俺だったら自分が相打ちになった……いわば一度死んだような場所へともう一度足を運ぶっていうのは、中々できないと思う。だからこそ、唯一部外者ポジションである俺が、なんとなく一番渋っているのかもしれない。 

「まあ、二人がそう言うんだったら、行ってみるか」

 俺が言うと、リオの表情はぱっと明るくなった。

「ありがとう、マスター」

「俺も魔王城ってのがどんな感じなのか、興味あるしな」

 RPGとかの創作では結構な数見てきたけど、直に見れる機会なんて普通無いからな。

 せっかくの異世界なんだし、そういうファンタジックな要素もちょっと見てみたい。

「じゃあ、明日行ってみるか」

 俺が言えば、二人は首を縦に振る。

 即断即決ということわざ、今のこの状況に相応しいだろ。多分だけど。

 なんか現実味がないなあ、なんて思いながら、俺は二人に。

「じゃあ、今日はここらで寝るわ。おやすみ」

 流石に、疲労が蓄積されてきた。

 明日も結構な大仕事だし、早めに寝ておきたい。

「おやすみなさい、マスター」

「おやすみ、マスター」

 俺が言えば、白百合とリオもそう返してくれる。

 俺は一人で。

 白百合とリオは、二人で。

 別々のベッドで、俺たちは眠りについた。










  朝起きて、ご飯を食べ。

 気持ちのいい陽の光を浴びながらギルドへと向かい。

 そこで、衝撃的な事実を知る。

「魔王城近辺には、冒険者ランクがC以上でないと入ることができないんです」

 金髪のお姉さんが、申し訳無さそうな様子でそんなことを話した。

「え、そうなんですか!?」 

「ですので、冒険者ランクを上げていただかないと難しいかと……」

 そ、そうだったのか……。

 横を見れば、リオがなんとも言えない表情をしていた。

 確かに、考えてみればなんとなく理由は理解できる。

 魔王城とかいうものは普通に考えて危険極まりない。たとえ跡地だとしても、そんなところに一般人とかは入れたいとは思わないよなあ。

 俺は一応冒険者だけど、ランクはDと下から数えて二番目。全体的にはまだまだ新米の部類だろうし。

「な、なるほど……分かりました」

 俺も軽く頭を下げて、白百合とリオを連れて一旦受付から引き下がる。

「どうする?」

「……確かに、制限かかってもおかしくないわよね、普通」

 リオが肩を落としてそうぼやく。

 いやこれ、どうしようもないしなあ。解決策は一つだろう。

「……とりあえず、冒険者ランク上げてみるか」

 俺が呟けば、リオは複雑そうな表情で。

「ごめんなさい、マスター。迷惑をかけてしまって」

「いやいいんだよ。その分お金も稼げるだろうし、どうせすることも特にないしな」

「私も、頑張る。リオ姉も、頑張ろ」

 白百合が励ますようにそう言うと、リオも。

「そうね。私も頑張るわ」

 こほんと咳払いをして、リオは背筋を伸ばした。

「確か、冒険者ランクってクエストをこなせばあがるんだったわよね? すごく前に聞いたことだから曖昧なんだけど」

「いや、それで合ってると思う。んで、クエストをこなして、いい感じになってきたら昇格が向こうから提示されるから、それをクリアすれば晴れてランクアップだな」

 だから今はとりあえずクエストを色々とこなすしか無い感じだ。

 まあ、ちょっとずつでもやっていけばすぐランクアップするだろう。EからDは結構簡単だったし、そこから多少難しくなろうともこっちには精剣がある。流石に勝ちでしょうこれは。

「とりあえず、クエストやってこうぜ」

「そうね」

 俺が言えば、リオは同意を示してくれる。その横で、白百合もコクリと頷いていた。

 そのまま三人でクエストボードの方へ移動して、色々と見てみる。

「多分だけど、今受けれる限界のクエストのほうがいいよな」

 冒険者ランクDの時点で冒険者ランクEでも受けられるクエストをやっているような人がランクアップできるとは思えないしな。

 とりあえず今できる中で高めのやつを……。必要冒険者ランクがD以上のやつを探してクエストボードを眺める。

「マスター、あれは?」

 白百合が言って、指さした先には一枚の紙が。

「ゴブリンの討伐……?」

 ゴブリンって言ったらあれだよな。人形で、緑色のあいつ。棍棒を持ってて腰に布巻いてるイメージが強い、あれ。

「確かに、ちょうどいい相手かも」

 リオもそう言って頷いた。二人が押すなら間違いないだろうということで、俺は紙を手に取ってみる。

 必要冒険者ランクD。報酬は30000G。一日でこんなに稼げるって、普通にバグでは?

 まあ命かけて戦うわけだし、こんくらいお金貰わないとやっていけないってのはある気がするけどな。もし俺が精剣を持って無くて一人で必死に戦ってる立場だったら、きっとそう思ったはずだ。

「うん。じゃあこれにするか」

 内容見た感じ特に違和感はなかったし、とりあえずこれを受けてみよう。

 もう一度受付へと向かう。もう何度か経験したことだからだろう、緊張は特に感じていない自分に、ほのかな成長を感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る