16話
街へとついて。
そんなに変わってないわね、と街並みを楽しんでいる様子のリオを連れて、ギルドへと向かった。
受付へと出向けば、フィオネさんが俺に気づき。
「わーお……」
そして、隣にいるリオへと目線を移してから、そんな声を上げる。
まあ、俺が見知らぬ人を連れてきたという時点でそういうことだよな。
「噂、本当だったか」
「ですね」
俺が頷けば、フィオネさんは興味津々といった様子。
にこりと笑いながら、自身の胸に手を当てた。
「私はフィオネ。この街のギルドのギルドマスターをやってるから、何かあったら気軽に声かけてね」
「リオと言います。何卒宜しくお願いします」
リオも、丁寧に頭を下げる。
目上だからか、敬語になっているリオに、付き合いが短いながらもなにかこう、新鮮さのようなものを感じた。
「こちらこそ、よろしくね」
お互いが挨拶を終えると、社交辞令は終わりだとでも言わんばかりに、フィオネさんは目を輝かせる。
「それで、君は精剣ってことで大丈夫?」
リオが首を縦に振れば、感慨深そうに。
「いやー、まさか生きてるうちに二人の精剣と会えるとは……ほんと人生って、何があるかわからないよねえ」
「いえ、私はそんな」
リオがふるふると首を横に振れば、フィオネさんがいやいやと返して。
「君が知ってるかはわからないけど、数百年前の君たち勇者御一行は、伝説みたいな扱いになってるんだよ」
そういや、白百合のときはあんまり感じなかったけど。
数百年の間に起こった出来事を知らないのだから、自分たちがそういう扱いをされてるってこと、普通は知らないよな。
リオもなんでこんなに感動されてるんだろって不思議に思ってたのでは。
「あ、そうなんですね……」
言われれば、納得したような、そして、一瞬、複雑な表情を見せた。
思うところとかあるんだろうか。俺には、なかなか察することができない。
「だから、私としてはすごい嬉しいわけ」
「……そっか。そんな風に言っていただけると、私達も頑張ったかいがあります」
リオは、微笑んでそんな言葉を返す。
その表情と言葉には、嘘は無さそうだった。
「……あ。そういや、山火事はどうなった? 火は消せた?」
おいおい。そういやってギルドマスターさん、あなた本職でしょ。
ツッコみかけたが、冷静に考えれば俺もクエストとか半分忘れかけてたので口を慎む。
「リオが消してくれました。……原理はよくわかんないんですけど、魔法みたいなので」
「魔法みたいなのじゃなくて、魔法ね」
言えば、リオに訂正される。
「おお、そっか。ならクエストは完了ね」
フィオネさんは「おっけー」と、なにやら書類に書き込みはじめる。
と、突然。
「マスター」
白百合に呼ばれて、俺は目線を隣へと下げる。
「どうした?」
問えば、白百合は。
「フェンリル、忘れてる」
「……あ」
言われて思い出す。
ポケットへと手をやれば、ゴロゴロとした感触がある。道中で戦ったフェンリルが落とした牙だ。
やべえ、完全に忘れてた。
「ありがとな、白百合」
「うん」
白百合の頭に手をおいてくしゃくしゃと撫でる。
嬉しそうに受け入れる白百合。なんかこれ、なんというか俺がするのはちょっと恥ずかしいんだよな。ラノベとか漫画とかのイケメン主人公がするやつじゃんこれ。
……まあ、白百合が喜んでくれているっぽいのでよしとしよう。
白百合に向けた感謝の儀を終えて手を離し、フィオネさんへと声をかける。
「すいません、道中でフェンリル倒したんですけど、そのドロップ品てなんかなります?」
「あ、そうだったの?」
書類から顔を上げるフィオネさん。
「じゃあ、それは買い取らせてもらおうかな」
「あ、買い取ってもらえるんですね」
倒しといてよかったな。臨時収入だ。
「うん。そんなに高くないと思うけど大丈夫?」
「全然大丈夫です、お願いします」
2本の牙をフィオネさんに渡す。しばらくそれを見た後、フィオネさんはどこかからお金を取り出した。
「じゃ、こっちの牙が1000Gで、クエストの方で20000Gね」
うお、クエストの報酬結構多いじゃん。
てかそういや、精剣のことばっか考えてて報酬のこと全く聞いてなかったな。俺が思えば、フィオネさんも同じようなことを思ったらしく。
「今思えばクエストの報酬言ってなかったよね? ごめんね、精剣にばっかり気を取られてて忘れてた」
「いや、俺も忘れてたので……」
お互い様である。精剣しか考えてなかったことまで。
報酬を受け取って、ポケットへと突っ込んだ。
「今日はもう帰る感じかな?」
「そうですね、そのつもりです」
外に目をやれば、もう暗くなってきている。いまからもう1クエストというのは流石にキツイ。
「そっか。それじゃ、また明日ね」
「お疲れ様です」
俺が頭を下げれば、隣でリオも同じように軽く頭を下げる。
「うん、お疲れさま」
白百合を連れて、リオと並んで。
ギルドを出れば、涼しい風が心地よく頬を撫でる。
「マスター、これからどうするの?」
首を傾げるリオ。
「とりあえず宿借りに行って、ご飯食べて寝るって感じかな」
言えば、リオはくすりと笑みを零す。
「わかった。……懐かしいわ、昔、前のマスターと私達で宿に入ったこと」
ほんの少し、悲しげな顔をしたのは、俺の見間違いだっただろうか?
前を向けば、沈みかけの夕日が、静かに街を照らしていた。
宿につき。
料金をわたして、いつものように部屋を取った。
「……ねえ、ベッド1つしか無いんだけど」
のが間違いだった。
冷や汗が頬を伝っていく。間違いなくプレミだこれは。クソ気まずいんだが。
「いやごめん、何も考えてなかった」
「いいけど。というか、そっちよりも」
リオは白百合へと目線を移す。
「マスターが部屋借りる時の受付の人、『いつものところね』って言ってたけど」
言っていた。俺と白百合は、毎回同じ部屋を借りているからだ。だがそれがどうしたのだろうか。
俺が頷けば、リオは疑わしげに目を細めて。
「前もここを取ったってことよね? それ、白百合とおんなじベッドで寝てたってこと?」
…………。
冷や汗。もはやそれを通り越して冷水レベル。
「いや……」
俺は誓って、やましいこととかは一切していない。白百合のことも、可愛らしい子だと思ってはいるが、”そういう”感じでは一切見ていない。
なのになんなのだろう。この感覚は。体験したことは無いが、これはそう、女の子のお姉ちゃん相手に「あなたの妹と一緒のベッドで寝ました!」とは絶対に言えないような、そういう感覚。
なんかリオと白百合って、見ていると姉妹のように見えてしまうんだよな。再開したときからずっと、なんとなくそんな雰囲気を感じている自分がいるのだ。白百合自身も、お姉ちゃんみたいな人だって言ってたよな確か。
俺が言葉に詰まっていると、白百合が事もなげに。
「うん、一緒に寝てた」
おーい。白百合。それは良くないかもしれない。
「ふうん」
リオの目線が俺に突き刺さる。
「いや、リオが思ってるような感じじゃないぞマジで」
「まあ、私もわかってるわよ。出会ってからまだちょっとしか立たないけど、そういう感じの人ではなさそうだから」
「だろ?」
「ええ、けど……」
リオは微笑む。
いや、微笑んでいるのだろうか、これは。これは、そう、それこそ人をからかうときにするような、どちらかというとにんまりとでも言ったほうがいい表情で。
「えっち」
俺の脳は破壊されたし、土下座までのスピードはそれはもう早かった。
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