15話
「それじゃあ、これでクエストは終わり?」
リオさんの問いに俺はうなずく。
「あ、そうですね。色々ありがとうございます」
「精剣がマスターのために力を振るうのは当然のことよ」
それに、とリオさんは付け加える。
「マスターになった人から敬語で話されるのは、なんか違う気がするの。普通に喋ってもらって大丈夫よ。名前も呼び捨てで大丈夫」
……なるほど。
まあ、相手側からそういうふうに言われれば断る理由もない。なんか、何かがむず痒い気がするのは俺だけなのだろうか。
リオさんの――いや、リオの、か。リオの見た目が、白百合と違って、年齢的に俺と同い年くらいに見えるからかな? 若干緊張しているのかもしれない。俺はコミュ強ではないで、同い年の女の子と話すのは非常に苦手であった。
前の世界を思い出して、俺はそんな事を考える。なんか、つい最近まで居たはずなのにな。もう遠い過去のように感じてしまっている。
「そっか。わかった」
俺が頷けば、彼女も満足そうに、よろしいと頷いた。
「それじゃ、とりあえずギルドまで戻りましょうか」
言いながら、リオはくるりと振り返って俺たちが来た方向へと歩き出す。
俺と白百合も、リオの横について歩を進めた。
「数百年ぶりに街に出れるのね……すごく楽しみだわ」
言いながら、彼女は嬉しそうに微笑みを零す。
白百合の時も気になったけど、数百年ぶりにいろんなことができるって一体どんな感情になるんだろうな。
いや、嬉しいのはそうなんだろうけど。その嬉しさの度合というか、なんというか。
計り知れない思いに思いを馳せる。
「なんていう街なの? もしかしたら、私も知ってるかもしれないわ」
リオに聞かれて、そういえばと思い至る。
「……あ、そういや俺街の名前知らないな」
「ええ? そんな事ある?」
言うてここきてまだ全然経ってないからな。とはいえ、何日間か滞在している街の名前を知らないというのもなんだかおかしい状況な気がする。
「私も、マスターに言っていなかった」
白百合もそういえば、との様子でそう呟いた。
「数百年の間に、名前が変わってなければ。確か、コンカドル」
コンカドル。
そんな名前だったのか、あの街。でもなんか妙にしっくり来る名前だな。違和感はない。
「コンカドル! そっか、コンカドルね……」
思い当たる節があったのか、リオさんは少し考える素振りを見せる。
「魔王との決戦の前、最後に来た街ね」
「…………え、そうだったのか!?」
衝撃の事実。
勇者、あの街に訪れていたらしい。それどころか過去の白百合やその他の精剣達も。
「そうよ。なに、白百合から聞かなかったの?」
「いや全く……」
白百合を見やれば、またもやそういえばと言いたげな顔をしている。
……まあ、俺そう言う質問とかあんましてないしな。
「いや、いいんだよ白百合。流石にビビったけど」
というか。
「え、てかということは、この近くに魔王城があったってこと……?」
「まあ、そうなるわね」
えええええええええええええ!?!?!?
口には出さないが、心のなかでは全力で叫んでいた。多分顔にも出てると思う。
「ま、まじか……物騒だなこの辺り」
「私としても、思ったより因縁のある場所でびっくりしてるわ」
リオはかぶりをふって、嫌なことを忘れようとするかのように前を向く。
「まあ、もう終わったことだけど」
なんとなく、暗い雰囲気を感じ取る。
まあそりゃそうだ。因縁どころの話じゃない、大因縁とか超因縁とかその辺りだろ。何いってんだ俺は。
つまり。暗くなるのも仕方がないという話だ。魔王と相打ちになってマスターを失い、あまつさえ仲間だった精剣達もバラバラになったのだから。俺は空気を変えるべく、話の筋を力技で変更することにする。
「て、てか。あれだ」
適当に話題をピックアップ。脳内検索エンジンにはいくつかの項目がヒットしていた。
「リオさんは、俺についてきてくれるってことでいいんですかね……? なんか、個人的にはそういう流れになってるんですけど」
思えば、フィオネさんから情報をもらったときからそんな流れだった。
精剣をゲットすれば白百合が喜ぶ。そのついでに俺も戦力アップするじゃんとか考えてたけど、よくよく考えれば精剣だって一人の人……人? 人じゃないか。精剣だもんな。
……ともかく。人格というのは存在するわけで。だから、ついていかないという判断をされるのも、わりと可能性のあった話ではあるのではないかと思ってしまう。
俺の問いに返ってきた返答は。
「また敬語になってるわよ」
あ。確かに。
話変えるのとその内容についてで頭の中の容量がいっぱいになってて、敬語についての話完全に忘れてた。
「すいませ――いや、ごめん、リオ。……もっかい言い直した方がいい?」
「私、そこまで意地悪じゃないわ」
冗談交じりに返せば、リオさんはそう言ってこほんと咳払いを一つ。
「私は、それで構わないわ。特にやりたいこととかは無いし、それに――」
リオさんは一呼吸おいて。
「精剣は、そのマスターと一緒にいるべきだわ。私を精剣として使えるのはマスターだけだから」
彼女の目に、信念のようなものが見えた気がした。もしくは矜持とかだろうか。俺には分からないが……。
「それに、白百合もいるし。その上二人で精剣を探すって話になってるんでしょ? 私も、他の精剣たちに会いたいしね」
そういやさっき、リオさんと白百合が話していたときにそんな話も出てたっけ。
「そっか。なら、大丈夫だな」
「ええ。存分に頼ってくれて構わないわよ、マスター」
意趣返しだろうか、少し冗談交じりに、彼女は俺をそう呼んでウィンクする。
……あざとい。だがかわいい。顔がいいからだろうか。いやそうだろうな。
「あれ、マスター? 照れちゃった?」
女性に対する免疫が強固でない俺は、思わず目を逸してしまっていた。
そこを突かれれば、なにか言い訳しようと無駄なことだろう。
「……うっせ」
出てきたのはなんというか、気持ちの悪い反論の言葉のようななにか。俺こんなキャラじゃないはずなんだけど!?
なにやらにやにやしているリオ。
今後の力関係が決まったような、そんな予感がした。
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