10話
「よいしょ……っと」
少しして出てきたのは、一枚の紙だった。クエストボードに貼ってあるのと同じような材質と大きさで、内容もそれらしくいろいろと書いてある。
「今回の討伐対象は、ゴーレムになります」
そう言って、その紙を俺の方に向ける。そこには確かに、討伐対象がゴーレムであることが明記されていた。
「ゴーレム、ですか?」
ゴーレム。
俺のイメージだと、でっかい岩みたいなやつだ。硬いとかいうイメージがあるし、なによりなんとなくだが強いイメージがある。
「はい。ご存じですか?」
「いや、なんとなく……聞いたことがあるような、無いような?」
そういえば、お姉さんは説明をしてくれる。
「ゴーレムと言うのは、岩のような大きい魔物です。その体は非常に硬いですが、動きは遅く鈍いので、比較的簡単に倒すことができます」
「なるほど……」
簡単に倒すことができる、という部分でちょっと安心しかけた所で、お姉さんは「でも」と付け加える。
「でも、冒険者さんが今まで戦ってきた魔物よりは格段に強いと思いますよ。動きは鈍いとはいえ、当たればひとたまりもないですから」
少し、考える。
動きは鈍く遅いが、威力は高い攻撃。白百合がその攻撃を弾けるかどうかって話だが……。
「……白百合はどう?」
俺が白百合の方を向けば、彼女はノータイムで即座に頷く。
「無問題。マスターに攻撃が当たることは、絶対にない」
頼りになりすぎる回答だ。
実際のところ、俺も相手の攻撃が通る気は全くしていない。そこは正直、どうとでもなるかって思っている。
こっちの攻撃だって、いくら相手が固くて、俺が弱いからって、何回も繰り返してればどうにかなるだろう。白百合に守ってもらいつつ、突っ込む。さっきの戦いで身に着けた方法でやればいいんじゃないか。
…………よし。なんとなくだが、行けそうな気がする。
「分かりました。気を付けておきます」
「はい、十分に気を付けてくださいね」
言って、お姉さんが微笑む。
……ちょっと、こういうことを考えるのは自分でもどうかしてるのだと思うのだが。
この人、マジで美人すぎるせいで、笑いかけられると心臓が跳ねてしまう。
「え、っと。ゴーレムってどこにいるんですか?」
動揺をかき消すように、俺は質問を投げかける。無心だ、無心。陰キャを押さえつけろ俺……。
「平原を抜けた先にある遺跡です。見たらすぐ分かると思いますよ。なんというか、独特の雰囲気が漂っているので」
「遺跡、ですか」
クエストで行く場所が遺跡。なんともファンタジックな話である。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、お気を付けてくださいね。無理は禁物ですから、少しでも危ないと思ったら引き返すのも手段ですから」
そんなことを言ってくれるお姉さんに、俺は頭を下げてから背を向ける。
少しでも危ないと思ったら引き返す、か。白百合が居る以上危険な状況に陥るとは中々思えないけど、心にとどめておこう。
平原をどれくらい歩いただろうか。
完全に失念していたが、平原にはスライムがいる。初めは驚いたものの、遭遇したスライムを何体か倒しつつ道のりを進んで、俺達はようやく足を止めた。
「これが、遺跡か……」
本当に見ただけで分かった。
平原の先、骸となった街の残滓。
恐らく石造りの建物群であったのだろうそれが、何が原因なのか無残に壊され、苔むした残骸がぽつぽつと残されている。
「確かに、独特の雰囲気があるな」
「うん。危なくなったら、すぐ私を使って」
白百合の言葉に、俺は頷いて手を握る。
「白百合は、ここに来たことは無いのか?」
聞けば、白百合は首を横に振る。
「うん。あの街には来たことがあったけど、ここまでは見たことは無い」
「そっか。白百合も初めてってことは、ちょっと気を付けないとな」
緊張感を持ちつつ、俺達は遺跡へと踏み入る。
身を包む雰囲気を跳ね返すように身震いして、俺は目標の捜索へと取り掛かった。
くるくると周りを見渡しながら、俺達は一歩一歩遺跡の中心部へと足を進める。白百合もきょろきょろと警戒しながら、俺の手を強く握っていた。
「にしても……なんでここって、遺跡になったんだろうな」
遺跡になる前のここは、どんな場所だったんだろうか。あの街のように綺麗で賑やかなところだったのだろうか。もしくは、辺境の村のような、落ち着いた農村だったのかもしれない。
なんとなく感傷的な雰囲気に浸りつつ歩く。
……と。
「マスター、あれ」
そこそこ進んだ先。広場だったのだろうか、噴水のようなものが倒れているそこに、何かが静かにたたずんでいた。
大きな岩のようだった。が、よく見るとただの岩じゃなく、建材のようなブロックが集まってできたいびつな球体だということが分かる。周りの廃墟と同じように所々苔が生えていて、年季を感じることができた。
俺がそれに視線を集中させると。
「っ……こいつか」
目があった。額の上部にある真っ暗なくぼみから、点のような赤い目がこちらを覗いている。
間違いない、こいつがゴーレムだろう。
「白百合、頼む」
そう言って、強く白百合の手を握りしめた。
白百合はそれに応えるように、透き通った声を響かせる。
「任せて、マスター」
閃光が走って、白い剣となった白百合。その切っ先を、ゴーレムへと向けて構える。
それを明確な敵意だととらえたのか……その巨躯を持ち上げて、ゴーレムは俺の方を向いた。
「でっけ……マジか」
想定はしてたけど、やっぱり目の前にすると圧が違う。大きさにして、俺の2倍くらいか? ってことは、3メートルちょっとくらいだろうか。
今まで戦ってきた敵は、全部俺よりも小さかった。こうして自分よりも大きな存在と戦うのは初めてだ。
手が震えているような気がして、俺は全力で叫ぶ。
緊張を押さえつけるように、恐怖を吹き飛ばすように。
「行くぞ、白百合!」
白百合の答えが聞こえる前に、俺はゴーレムへと駆け出した。
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