第4話 解呪。
「ねぇ、玄太。真守君の残した残留思念読み取れそう?」
「あぁ、やってみる」
そう言うと玄太は二人から離れ、屋上の中央に立つ。そこは、真守が屋上から飛び降りる前に仰向けで寝転がって場所だ。
そこから、玄太の視線は何かを追うように動き始める。
少し離れた所でその様子を見ていたかすみ先生が、夏菜に声をかける。
「あの子が何かをつかむまで、私の作った『金魚の糞チョコ』食べて待っていようか! 女の子は、甘い物を食べて力を補充しておかないとね」
かすみ先生が、ヒョロヒョロと細長い
「あのう、かすみ先生と藤原君って……」
「あぁ。姉と弟。なんとなく、わかってたんでしょ? でも、他の生徒たちには内緒よ」
「——はい」
夏菜は、やっぱりそうだったんだと思いながら、恐る恐る『金魚の糞チョコ』を口に入れた。
「あっ、美味しい」
緊張がほぐれ、思わず笑みが零れる。
二人が談笑していると、突然、頭の上から声が降って来た。
「あー! チョコ食ってる!! 俺が、情報収集している間に、お前らはぁ~~~」
「まぁ、まぁ。ほら、玄太の分も残してあるから。美味しい金魚の糞チョコ。はい、どうぞ」
「えっ? 金魚の糞???」
姉の持つ黒い物体は、まさしく金魚の糞のような……
「俺は、いいや――。それより、呪いの正体が解けた」
「でかしたぞ、玄太!」
「
「じゃあ、真守君が神霊になってしまったの? それじゃ、浄霊なんてできないんじゃ……」
夏菜が、眉根を寄せていう。
「玄太、誰が神霊となった真守君を使って呪いを遂行しているの?」
「
「はぁ―――――――?」
かすみ先生が、
「井上内親王って言ったら、奈良時代の
さすが、社会の教師だ。次から次へと、機関銃のように喋り続ける。しかし、口が悪い。玄太は、興奮する姉に引いていた。
「あのぅ、かすみ先生。真守君は、井上内親王に仕えていた陰陽師の子孫だったと思います」
「えっ? そうなの? かつての恩を返すために、陰陽師の子孫の無念を晴らそうとしているの? なら、井上内親王って、やっぱり良い人じゃん!」
「良い人なわけないだろ? 呪いで人なんか殺しちゃ駄目だよ! さて、その井上内親王が解呪しようとする俺たちの前に現れましたよ」
「はぁ? 早く、なんとかしなさいよ! 私は、視えないし、なんにもできないんだから‼」
かすみ先生はそう言うと、扉の影に隠れた。
餓鬼を引き連れた井上内親王の隣には、真守の影が揺らめいている。人間としての形は崩れてしまっていて、まはや浄霊できる状態ではなかった。夏菜も、それを悟った。
「夏菜さん、君は何ができるの?」
「式神くらいなら扱えます」
「じゃ、あの餓鬼ども祓えるかな?」
「できます!」
「頼む。俺は毘沙門天さまと応身して戦うから」
玄太が真言を唱えると、毘沙門天が現われ玄太の体と重なった。
「よし、成功。これで、毘沙門天の力が使える!」
その様子を見ていた井上内親王がの体がわなわなと震える。
「くっ、まさかこんな術をつかえる者たちがおったとは…… お主、何者じゃ?」
「修行僧見習い玄太! さぁ、行くぞ‼」
玄太が勢いよく踏み出すと、内親王は龍に変化しその長い尾で夏菜の体をはらった。
「キャ――――――」
叫び声と共に、夏菜が屋上から落ちた。
「ヤバい!」
慌てて下を見ると、水の張られたプールに夏菜は落ちていた。水中から顔を出そうと
餓鬼たちから逃れ、なんとかプールサイドに
「愛しい
そう言って、海へと入って行く女性。
あぁ。これは、私の前世・
夏菜は、そのまま意識を失った。
プールサイドで気を失った夏菜を見て玄太が叫ぶ。
「お前を死なせない! 絶対に助けてやる!!」
玄太は龍の背に乗って真言を唱えながら、
『頼む。深く、もっと深く入ってくれ! 龍の鱗を突き抜けることができれば、こっちに勝算があるんだ。夏菜は、俺が護る!』
「ぐぅわぁぁぁぁ―――――」
龍の体が崩れ落ちた。
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