第2話 今どき、七三分けの転校生。

 夏休み明け、一人の男子が美童中の二年三組に転校してきた。


「今日は、転校生を紹介します」

 

 小柄なわりに巨乳の安藤かすみ先生の隣に、七三分け男子が立つ。

 お洒落な美童中のブレザーが全く似合っていない。

「藤原玄太です。宜しくお願いします」

 玄太は、軽く頭を下げた。


 そんな玄太を見て、何やら小声で囁く女子たちがいる。

 玄太は、女子の心の声を想像して苦笑した。

 どうせ、『七三分けで眼鏡かけてる、ダサ男』って言ってるんだろうな。

 

 好きで髪型を七三分けにしているわけではない。

 寺の住職をしている父親に、剃髪ていはつにするか七三分けにするか、どっちかに決めろと言われたのだ。


 さすがに中二で頭をツルツルにする勇気はない。

 そこで、泣く泣く七三分けにすることにした。それだけの話だ。


 それから、クラスのみんなに知られてはいけない秘密が玄太にはあった。

 安藤かすみ先生は、玄太の姉だ。嫁いで、性が変わった。それをいいことに、学校では兄弟だということがバレないようにしろと脅された。

 

 12歳も年の離れた姉に逆らうことはできない。

 姉のいる学校へ転校するのだって抵抗があったのに、よりによって姉が担任するクラスになるとは……。つくづくついていない。

 

「玄太さんの席は、窓側の列の後ろから二番目の席ですよ」

 かすみ先生は、にっこりと席を指さす。


 うん?


 後ろから二番目の席には、見慣れない学生服を着た剃り込み入りの坊主頭の男子が座っていた。両足を机に乗せ腕組みをした横柄な態度の生徒。絶対に近づきたくないタイプだ。


「玄太さん、どうかしましたか?」


 玄太の戸惑っている様子を見て、かすみ先生が声をかける。


「あっ、いいえ。なんでもありません」

 そういうと玄太は、鋭い目つきの男子が座る席に向かった。


 おいおい幽霊が座ってる席かぁ。しかもヤンキーって、参ったなぁ。


 玄太は、仕方なく幽霊に重なるように座った。

 ざわっ

 背中に悪寒が走る。


 この波動……

 あまりたちが良くないな。


 玄太は、目をつむり心の中で不動真言を三回唱える。


 ノウマクサンマンダ……カンマン!


 幽霊の気配が消えた。除霊成功。

 玄太が目を開けると、かすみ先生がニヤニヤしていた。

『あっ、わざとこの席を空けておいたな。ちっ、やられた!』


 そのとき、『ガタン!』という大きな音が玄太の背後から響いた。

 驚いて後ろを振り返ると、髪の長い女子が驚いた顔で立っていた。


「夏菜さん、どうかしましたか?」


「あっ、すみません。——そっ、その、藤原君、死んだおじいちゃんに顔が似ているのでびっくりしていたのですが……、椅子に座った背中の感じまでそっくりなので、思わず立ちあがってしまいました」


 夏菜の言葉に、教室が揺れるほどの大爆笑が沸き起こった。


 死んだじいちゃんって――

 俺って、そんなに老けてんの?


 思わず玄太の顔が引きつる。 

 




 

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