弟は、彼女のために仏道修行を未だ続けていることに気がついていない。

月猫

第1話 自殺。

 真守まもるは、学校の屋上で仰向けに倒れていた。

 少し開いた口からは、一匹のムカデがはみ出している。


「あいつら馬鹿だ! 蠱毒こどくで生き残ったムカデを俺の口の中に突っ込むなんて……。 フン、神霊となるはずだったムカデを俺が喰らったら、どうなる? 俺が神霊になるんじゃねぇのか? それもいいなぁ。最強の蠱毒厭魅こどくえんみだ!」

 カッと目を見開き、真守はそのムカデを嚙み砕いた。


「おえっ!」 

 思わず、体が反応し大きく嘔吐えずく。


「くっそ! お前、クソ不味いんだよ‼」 

 誰にもぶつけることのできない苛立ちを、言葉にして吐き出す。

 真守は顔をしかめ、ふらふらと立ちあがった。


 真守は屋上の柵を越えた。

 血走った目で地面を見つめる。

 フーッ。フーッ。

 息が荒い。


「あいつら、絶対に許さねぇ!」

 そう叫ぶと、真守は学校の屋上から飛び降りた。


 青空に両手を伸ばしながら落ちて行く。両足が地面に着地。衝撃で膝が曲がり

一瞬体育座りの格好になったが、直ぐに両足は伸び長座の姿勢から上半身が倒れた。

 

 真守の死体に、地獄から這い出した餓鬼どもが集まる。


 グフグフグフグフ……

「内親王さまぁ。これ、喰いたいよぉ」

 

 真守を喰いたいと騒ぐ餓鬼たちを、十二単を着た能面のような女が制す。


「そいつの願いを叶えてからにしな」

「あい、わかった。あい、わかった」

 ケタケタケタケタ……

 餓鬼たちは、無気味な笑い声と共に消えた。


 地面に叩きつけられた少年の胸に黒い花が五つ咲いていた。

 女は花を摘み、その匂いを深く嗅ぐ。


「五人じゃな。さて、呪われた相手の魂を頂きに行くとしようかの」

 


 美童中学校 二年一組 占部真守うらべまもる 享年14歳


 いじめを苦に自殺。

 


 

 

 

 

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