4月3日 悲しみを超えた愛③

 俺の身体が、地面に打ち付けられることはなかった。


「あ……れ……」


 俺の身体は、白い地面スレスレで浮いている。

 まるで、重力異変の時みたいに……。


「まさか……」


 着地した俺と集真は、思い当たる者の方向に頭を向ける。


「ふふん♪ これがアタシの底力よ!」


 茉莉が片腕を俺に向けて伸ばし、得意げに胸を張った。


「優君に群がる“バグ”が大きくなったり姿を変えたりしてるのを見て、ピンときたのよ。ほら、優君の力って、正体を歪めるんだったよね」


 俺と集真が顔を見合わせて頷く。


「だから、アタシも能力使えるんじゃないかなって思ったの」


 茉莉が握りこぶしを高く挙げる。


「あとは気合よ!」

「じゃあ俺も助けろ!!」


 優は今だに、“バグ”の餌食になっている。


「優君、意識を黒ずみに集中させるの! それで、能力を使っている自分を想像して!!」

「そんなこと言ったって…………ええい! やってやらあ!!」


 優が目を瞑ると、“バグ”はポンポン煙をあげていく。耳障りなノイズが消え、“バグ”だったものは、天使のような羽の生えたゲームカセットに変わっていた。


「はあ、はあ……」


 息切れする優に、ゲームカセットが擦り寄る。


 俺はその様子に一安心しながらも、李を見据えた。引き攣った表情の少女は、その小さな身体には大きすぎる負荷を背負っている。


「李!! 今助ける!」

「私は、ここから……この世界から逃げられない……世界の中心だから……」

「だからデバックするんだよ! この世界でお前を縛るものを、断ち切ってやる!」


 ナイフを拾い叫ぶ俺に、李は悲鳴をあげる。


「駄目です! それだけは!!」


 デバックによって世界が戻れば、俺は植物状態で、意識を失ったままだ。李はそれを……絶望的な現実を危惧している。

 だが俺は、俺たちは止まらない。


「集真、部室の鍵!」

「りょぉか~い」


 集真がほいと投げた鍵をキャッチする。


「茉莉! 重力を操作して俺を李のところまで運んでくれ」

「分かったわ!」


 身体が再び宙を浮く。そして、


「そぉれええええええ!」


 の号令とともに、李の元へ放り投げた。弾丸を発射するように一直線の軌跡を描く。顔に風があたり、少し痛い。


「来ないで……ください……!」


 バグが彼女の行く手を阻む。それは分厚い壁のように。


「しゃーねえな!」


 優の呆れたような声とともに、壁になっていた“バグ”は再び羽の生えたゲーム機に変わる。それらは俺の進む道を開けるように左右に避ける。


「届けええええ!」


 鍵の先を突き立てる。李まであとほんの数メートル。


 その時、李の顔に魅入られてしまった。今にも泣きだしそうな少女に、俺は居ても立ってもいられない。


 俺は李に手を伸ばして——抱きしめた。

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