3月38日 集う喜び①

 今朝も頬をつねられる。目をゆっくりと開けると、やはり李の姿があった。今日の分の着替えを持って、仰向けになった俺を覗き込んでいる。


「おはようございます、兜様」


 目を細め微笑むメイド。

 その笑みの内側で、一体何を考えているのだろうか。昨日の作り笑いを思い浮かべながら、俺は目覚めたばかりの頭を巡らす。

 しかし俺には分からない。


「朝食ができております、着替えたのちお越しください」


 着替え終え、いつも通り朝食を摂る。今日はパンとスクランブルエッグ、ウインナーにキャベツとトマトのマヨネーズ和えだ。

 そう言えば、彼女のご飯は洋食が多い気がする。恰好は和風だからか、ギャップを感じる。少し意外だ。美味しいのだが。


 今日は同好会がある。と言っても4月に纏わるヒントがないから、今回は“バグ”に焦点を当てることになった。最近は“バグ”が活発であるというのが調査の理由であり、ひょっとしたら4月が来ないのと関係があるのではという憶測の元集合が決まった。

 事前に集真から送られてきたメールには、“バグは金属が弱点”だと書いてあった。

 なるほど、だから李のナイフで、“バグ”を切り伏せられたのか。


 ちなみにこれは部室のオカルト雑誌に載っていたものらしい。真実は定かでないか、バグがナイフで殺される現場を目の当たりにしているため、信憑性は高い気がする。


 今日はそれ以外も調べるため図書館に赴くことになっていた。部室に集まってから、歩いて移動するのだ。

 財布に図書カードが入っているか確認していると、テーブルの上でバイブレーションが鳴った。俺の携帯だ。


 画面には『集真藍』の文字。今日の活動についての連絡だろうか。そう思って耳を画面に当てると、


「やあとり……」

「大変よ兜!!」


 思わぬ乱入者の金切声に鼓膜が破れるかと思った。


「ま、茉莉か……?」


 どうやら既に合流しているらしい。


「どうしたんだよ、そんな大声出して」

「それが大変なのよ!!」


 彼女の声の背後で、「僕の携帯ぃ……」と零す集真は置いておいて、茉莉の話に耳を傾ける。

 彼女が口走ったのは、思いがけない事実だった。


「優君が……優きゅんが退部したのよ!!!!」






 急いで部室に向かうと、わなわな震えている茉莉と、椅子に腰かけて一枚の紙を眺めている集真がいた。茉莉は俺たちが部室に入るや否や、駆け寄り袖を掴んできた。俺と李のを、片側ずつ。

 今にも泣きそうな茉莉。よほどショックだったらしい。


「これが、退部届ね」


 集真が俺に紙を差しだす。そこには直筆の署名が記され、印鑑が押されていた。


「僕としては、あの子の意見を尊重したいんだけどさ。茉莉ちゃんがさっきからこんなんで……」

「何か理由があるはずよ! じゃなきゃいなくなっちゃうなんて!!」


 袖を引っ張る茉莉に俺は反論する。


「でも、あいつが自分の意思で抜けたんだ。俺たちが突っ込むのも野暮じゃ……」

「関係ないわ! アタシが絶対見つけて見せる!! 待ってて、優きゅん!!」

「いってら~」

「集真も行くの!!」


 こうなったら止められない。俺と李、そして集真はそのまま茉莉に連行された。

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