3月34日 和気あいあい③
昼食を済ませた頃、集真からメールが来た。
『木材買ってきて? ついでに部室の窓直しといて?』
実に人遣いが荒い。これも部長権限って奴か。
『断る』
『イケず~、じゃあ僕も付き合ってあげるからさ~』
『なんで上からなんだよ、つかテレビは良いのかよ』
『さっき終わった~』
『じゃあホームセンターの前で待ち合わせな』
『りょ~』
財布に入った残金を確認した俺はパーカーを羽織り、その上からショルダーバッグを掛けた。
「兜様、どちらへ行かれるのでしょうか」
「ちょっとホームセンターに」
「では、私も同行させていただきます」
俺の傍に歩み寄る李。に、茉莉が急接近する。
「私も行くわ!」
「そのまま帰ってくださいませんか?」
「ひどっ?! この私がライバルと認めたのよ!? もっと有難く思っても……」
「参りましょうか、兜様」
「無視しないでよお~!」
三つの影が一定のペースで進んでいく。俺の隣には李が侍り、その後ろには茉莉が目を光らせている。
李は、磁石のように俺の傍に寄ってきた。引き剝がせそうにない。さらに茉莉も、俺の横に並んだ。
周りの視線が痛い。買い物帰りの女性二人組が俺を見て声を潜める。通りかかった男児が、俺の様子に不思議そうな眼差しを向けた。
「な、なあ李。ちょっと離れて歩かないか?」
「どうしてでしょう」
「すっごい見られてるっていうか……正直滅茶苦茶恥ずかしいっていうかさ……」
あとついでに、李が離れれば付随して茉莉も離れると思う。
「恥ずかしがることなど何もありません。貴方様は私の主なのですから」
「い、いやそうじゃなくて……」
「それに、私は“兜様のメイド”という存在を誇示していきたいのです。光栄なことでございますから」
李に言っても聞き入れてもらえなさそうだった。そして同時に、茉莉も李に張り付いて離れない。
二人のメイドが俺の近くを歩くという、一部の人間からは激しく嫉妬されそうな状態。俺としてはどうも気まずさが残った。
しばらく歩いていると、茉莉が興味津々で声をかける。
「あっ、それって附子君でしょ? かわいい~!」
彼女が見つめるのは、ショルダーバッグに付いた附子君ストラップだった。紫色の鶏冠を携えた吊り目のマスコットが、歩くたびに振り子の如く揺れる。
茉莉の歓喜に、李も附子君に目を向ける。踊り狂うマスコットを横目で見ていた小さな少女だったが、少し見たのち視線を逸らしてしまった。
伸びる影は何処までも暗く、それでいて淡泊であった。
ホームセンターの入り口前では、相変わらず猫背の集真が携帯を弄りながら待っていた。集真は俺たちの気配に気づくと顔を上げ、
「なぁんだ、皆来たんだ~」
呆けた声を出す。
「これじゃあただの同好会だよ~」
と言いつつも、内心は喜んでいる。というか、もはや顔に出ていた。緩みきった表情を、もはや隠す気もないようだった。
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