3月34日 和気あいあい②
黄色と黒ずみのオッドアイが、大正メイドの身体を凝視している。
「じー……」
洗濯籠を持った李が窓を開けると、優しく慰めるような風が舞い込んできた。冷たさが暖気に中和され、俺の肌を伝うのだ。
「じー……」
黄金茉莉は先ほどから李の後をついて回っていた。まるで飼い主に構ってほしい犬のようだ。
一方李は、家事の手を止めないながらもあからさまに嫌がっている。
「やっぱり山に捨てれば良かった……」
と聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。
お茶を飲んで、手持無沙汰な現実をごまかす。李は良かれと思ってしてるのだろうが、俺の胸には罪悪感が小さな渦を巻いていた。これが集真とかだったらそこまで精神的にくるものはないだろうが、なんとなく李相手だと申し訳なくなる。……恐らく、付き合いの長さに起因するのだろうが。
「なあ李。俺も手伝うよ」
「いえ、兜様はごゆっくりなさってください。それが私の本望でございます故」
丁重に断られてしまった。
「じゃ、じゃあ、何かやってほしいことないか?」
「…………強いて言えば、この女を私から引きはがして欲しいです」
俺にお願いするとは、よっぽど鬱陶しいらしい。
李と茉莉。水と油を思わせる二人は、ピリピリとしながらもなんとか均衡を保っていたのだが、茉莉の一言で見事に瓦解した。
「え!? 李、兜のパンツも干すの?!」
「ゲホッ、ゴホッ!!」
盛大に噎せた。
「そうですが、何か?」
「へ……へえー……そうなんだ……」
恥ずかしそうにオッドアイを逸らす茉莉。ぶっとんだ気質の子かと思っていたが、どうやら彼女も、一般的な感性を持っているらしい。
しかし、
「これもメイドの仕事……李に勝つため…………」
ごくりと唾を飲む音が聞こえたかと思えば、
「私もやるわ! さあ、そのパンツを貸してちょうだい!!」
やっぱぶっ飛んでたわ、黄金茉莉。
というか、ベランダからそんなこと言わないでくれ。ご近所さんにダダ漏れだから。顔向けできなくなるじゃないか。
「いけません、これは私のでございます」
「いや君のでもないよ?!」
勢いよく立ち上がる。残った茶が大げさに揺れる。
「だったら勝負よ! どっちが兜のパンツを手に入れられるか!!」
「はあ……望むところです」
「ストオオオオップ!!!!」
なんでそうなるの?! それになんで李も乗り気なんだよ。さっきみたく軽くあしらってくれよ?!
「やめやめ! これからは俺が自分の干すから!!」
李から下着を取り上げる。
「……それは、命令でしょうか」
「命・令・だ!!」
今の発言もご近所さんから誤解を招きそうだったが、今の俺にそこまで考える思考的余裕はなかった。ただひたすらに、顔が熱かった。
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