最終話

 それからノアは、丸三日寝込んだ。

「ルーカス……」

「あ、ノア!起きて大丈夫かい?」

「はい……。僕、いっぱい寝てました。もう眠くないです」

「ははは、そうか。ならよかった」

 ルーカスはノアの頭をなで、微笑んだ。その顔は安堵に満ちていた。

「ルーカス、お腹空きました」

「ちょうど昼食が出来たよ。食べられるかい?」

 テーブルに並んだ洋食を前に、ノアは目を輝かせていた。

 スプーンを手に、コーンスープを一口。

「おいしい!」

「そうか……良かった……」

「空腹期収縮が起きてます!」

「ははは、そう言うなら“お腹が鳴っている”と言い換えられるんだよ」

 ノアは「また一つ賢くなりました!」と今度はサラダに手を付けた。

「ノア……今回君が発熱して寝込んだのは……私が日本へ連れて行ったからなんだ。本当に申し訳ない……」

「僕、大丈夫ですよ!もう元気です。心配しないでください!」

 ノアはいつも通りの無邪気な笑顔でルーカスを見つめた。

 


「ノア!体調を崩していたんだって?大丈夫かい?」

 仕事に復帰したノアに、一目散に駆けよってくる本部長のトンプソン。

「はい。もう治りました!」

「そうか……良かった……。私は心配で心配で……」

 彼がノアに抱きつこうとしたとき、ノアは彼の腕をすり抜けた。

「あ……」

「え……?今、ノア……すり抜けたよね!?私が嫌いなのか!?」

 ノアは気にするそぶりも見せず、Noah's arkへと向かっていく。

「あの、本部長……ノアは抱きつかれることや距離が近いのが苦手なんですよ……」

「でも、君なら大丈夫じゃないか……私は嫌われているんだ……」

 彼はとぼとぼと自分の執務室へと帰っていく。その背中はとても寂しそうだ。

 そうか……そういえば、ノアは私が抱いても、距離が近くても、頭をなでても嫌がったり、逃げたりしない……。

 ルーカスは嬉しくなって、今にもスキップしそうな気持ちを抑えていた。

「ノア!」

 彼がそう声を掛ける。

「何ですか、ルーカス!あ!クッキーですか!?」

 ノアはあの無邪気な笑顔で、ルーカスが来るのを待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る