最終話
それからノアは、丸三日寝込んだ。
「ルーカス……」
「あ、ノア!起きて大丈夫かい?」
「はい……。僕、いっぱい寝てました。もう眠くないです」
「ははは、そうか。ならよかった」
ルーカスはノアの頭をなで、微笑んだ。その顔は安堵に満ちていた。
「ルーカス、お腹空きました」
「ちょうど昼食が出来たよ。食べられるかい?」
テーブルに並んだ洋食を前に、ノアは目を輝かせていた。
スプーンを手に、コーンスープを一口。
「おいしい!」
「そうか……良かった……」
「空腹期収縮が起きてます!」
「ははは、そう言うなら“お腹が鳴っている”と言い換えられるんだよ」
ノアは「また一つ賢くなりました!」と今度はサラダに手を付けた。
「ノア……今回君が発熱して寝込んだのは……私が日本へ連れて行ったからなんだ。本当に申し訳ない……」
「僕、大丈夫ですよ!もう元気です。心配しないでください!」
ノアはいつも通りの無邪気な笑顔でルーカスを見つめた。
*
「ノア!体調を崩していたんだって?大丈夫かい?」
仕事に復帰したノアに、一目散に駆けよってくる本部長のトンプソン。
「はい。もう治りました!」
「そうか……良かった……。私は心配で心配で……」
彼がノアに抱きつこうとしたとき、ノアは彼の腕をすり抜けた。
「あ……」
「え……?今、ノア……すり抜けたよね!?私が嫌いなのか!?」
ノアは気にするそぶりも見せず、Noah's arkへと向かっていく。
「あの、本部長……ノアは抱きつかれることや距離が近いのが苦手なんですよ……」
「でも、君なら大丈夫じゃないか……私は嫌われているんだ……」
彼はとぼとぼと自分の執務室へと帰っていく。その背中はとても寂しそうだ。
そうか……そういえば、ノアは私が抱いても、距離が近くても、頭をなでても嫌がったり、逃げたりしない……。
ルーカスは嬉しくなって、今にもスキップしそうな気持ちを抑えていた。
「ノア!」
彼がそう声を掛ける。
「何ですか、ルーカス!あ!クッキーですか!?」
ノアはあの無邪気な笑顔で、ルーカスが来るのを待っていた。
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