第五章①

「僕が犯人の一員だとして、証拠はあるんですか?僕がPCのメンバーだという証拠は?」

 自信満々にそう言う。

 郷田もまた、彼をまっすぐに見つめ「証拠ならあるよ」と一枚の資料を目の前に出した。

【一八才少年、ひき逃げされ遺体発見は事件から七日後】

 そんな見出しの、一枚の雑誌記事の印刷だった。

「君はこれに関係している。いや、君だけじゃない。機捜の黒川さん、鑑識の高山さん、科捜研の半田さん、そして神奈川県警の佐倉巡査、君もだ。君たちは四人で“PC”なんじゃないか?」

「だから、その根拠は……」

「この少年のひき逃げ事件、同級生のコメントが載っている。名前付きでね……。当時は被害者と面識のある人物の名前が載ることなど珍しくなかった。今は個人情報保護法があるから厳しいがね。この記事、不思議と君たち四人の名前、学校の名前、全てが載っているんだよ」

 郷田はそう言うと、資料に視線を落とし、声に出して読み上げた。

「“三月十五日、午前九時半ごろ、神奈川県川崎市富士見通りでひき逃げ事故がありました。現場近くには税務署や裁判所などが立ち並ぶビル街ですが、比較的見晴らしも良い通りです。ここで事故に遭ったのは当時一八歳の少年、天野みずき君。彼は当時、川崎総合高校の三年生で、三日後には卒業を控えていました。大学も決まり、同級生たちと楽しい毎日を送るはずだった。ですがそれは一瞬で失われた。事故当日、彼は同級生たちと遊ぶために待ち合わせをしていた。その場所へ向かう最中に会社員のOさんが運転する自動車に轢かれ、重傷を負った。Oさんは気が動転し、車に遺体を乗せ、近くの草むらへ遺棄したと警察の聴取で言った。だが、天野君は死んでいなかった。まだ息があった。この時点で警察に連絡し病院へ搬送していれば助かったかもしれない。だが、彼はそうはしなかった。自分の保身を考えたのだ。結果、天野君は命を落とし、この世を去った。彼の同級生たちが「待ち合わせ場所に来ない。いつも遅れることはない。連絡も取れないから探してほしい」と警察に頼んだが、警察は応じず、いたずらだと処理した。彼らは自ら天野君を捜索したが見つからず、一週間が経過。土手下の水路に天野君の遺体が発見された。死後一週間も経過していた”」

 郷田が話す記事を、佐倉は黙って聞いていた。顔色一つ変えずに。

「“同級生の黒川大輝君、高山洋一君、半田亮也君、佐倉昇君は、彼の葬儀で話した。「天野はパソコンが得意で、将来は警察のサイバー課に勤めたい。自分はホワイトハッカーになって、役に立ちたいっていつも言っていた。なのに犯人と警察のせいで、みずきは夢を叶えられない。僕たちが代わりにみずきの夢を叶えたい」と。彼らは深い傷を心に負った。それはこれからもずっと消えることなく、心に残り続けるだろう”」

 郷田はバインダーに資料を綴じ、そっと閉じた。

「これは偶然かな……?」

 佐倉にそう尋ねる。

 その時、取調室のドアが開いた。

「君たちは……」

 部屋の中に三人の男性が入ってくる。

「俺は機捜の黒川です。郷田さん、申し訳ありません……」

「鑑識の高山です」

「僕は科捜研の半田です……」

 佐倉の元に、三人が集まった。

「君たちが来たということは、私が言ったことは間違っていないということですね?」

 郷田は同意を求めた。

 三人は頷く。

「郷田さん、聴取するなら昇だけじゃなくて俺たちもしてください。俺たち四人でPCですから……」

 黒川は力なさげにそう言った―――。



「アンダーソンさん、ノア君、彼らがすべて自供しました。あなたたちから聞いたもの全てと一致していましたよ……。なぜわかったのです……?」

 郷田はルーカスに説明を求めた。

「分かりませんという答えが一番説明しやすいです。なぜそう思ったのかは、ノアでないと分からないですし、私はノアの考えを代弁したという方が、感覚的には近いですから。ですが、一つだけ解けてないんです……アメリカで起こった事件……これは彼らとは関係なかったのでしょうか……」

「私もそのことを彼らに聞いた。だが、これに関しては知らないと……」

「カモフラージュだったのか、初めからこのPC事件とは関係がなかったのか……」

 頭を悩ませているルーカスを、ノアはじっと見ていた。

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