「捜査長!分かりましたよ!」

 PC事件がひとまず解決したことから、ルーカスとノアはホテルへと戻ってきた。

 明日からのことを相談している矢先、パトリックとパーカーの二人がホテルのドアをノックする。

「分かったって……マイクダンバーの件かい?」

「ええ。ダンバーは日本のPCと関連していたのではなく、フランスのPCと関連していたんですよ!まさかのPC違いです……」

 パーカーはため息交じりに答える。

「ではその件は……」

「長官に話したら、裏付けが取れたから戻って来いと……。あの口調……わざとじゃないでしょうか……。ノアを日本に来させたかっただけなんじゃ……」

 パトリックがそう心配そうにルーカスに話す。

「僕はアメリカと日本の事件が違うの知ってました。アルフレッドは日本の事件と似ている話をしましたがそれはコールドケースになってます。日本と関係があるのは書いてませんでした」

 と、衝撃発言をした。

「コールドケースの中から事件を選んでいるときに、フランスのPC事件もあったし、マイクダンバーの事件もあった。でも僕は州立病院殺人事件を選んで解決しました」

 ノアはクッキーを頬張りながらそう話す。

「ノア……どうしてそれを僕たちに話さなかったの……?」

 パトリックがそう尋ねる。ノアは彼に視線を合わせず、「聞かれてません」と答えた。

「なるほど……長官の粋な計らいということにしておこうか……」

 三人は笑うしかなく、部屋にはノア以外の笑い声が響いていた。



 翌朝、四人は警視庁へ向かっていた。

 いつものように会議室へ入る。部屋は既に片付けに入っていた。

「解散……するんですか?」

 ルーカスは斎藤に声を掛けた。

「ええ。今回の事件は県をまたいでいたので、特別に集まったチームです。事件が解決したなら、それぞれ自分の持ち場に戻るのがルールなんですよ」

「私たちも戻ることになりました。それで、最後のご挨拶を……」

「そうなんですか……少し寂しいですね……」

 斎藤はノアを見つめている。

「斎藤さん、さようなら」

 ノアに特別な感情がないのは分かってはいるが、 こうもあっさりと別れを告げられると、寂しさよりも笑いが込み上げてしまう。

「ははは、ノア君……。郷田さんたちも呼んできますから、少しお話してからお別れしませんか?」

 斎藤はそう提案し、郷田班を集めた。

 会議室隣にある部屋へ全員が集まる。そして他愛もない会話が始まった。

「いや、今回の事件、本当に感謝しかありません。まさか、警察内部にいる関係者全員が犯行グループだとは……。皆さんがいらっしゃらなければ、この事件は多分迷宮入りで、本当に完全犯罪になるところです……」

「事件、僕が解決しますよ!お礼はクッキーで!」

 ノアがそう口に出すと、笑いに包まれた。

「事件解決のお礼がクッキーとは、安すぎませんか?」

 郷田は微笑みながらノアに尋ねる。

「三種類あるので問題ないです!昨日買ってもらったんですよ!」

 ノアはそう言ってポケットに閉まっていた袋を取り出した。

 手にはクッキーが。

「ノア、持ってきたのかい?」

「はい!」

 そう言って、彼は口に頬張り始める。日本のクッキーはアメリカのとは少し違いますね!などと言っては、一同を笑いのツボに落とす。 

 和やかな時間が流れた。それはあっという間で、ついに別れの時間が来た。

「郷田さん、斎藤さん、森田さん、村上さん、本当に色々とお世話になりました。ノアのこと、理解してくださり感謝しています」

 ルーカスがそう頭を下げた。

「感謝されるほどのことではありません。むしろ、こちらが感謝しなくては……」

 郷田もまた頭を下げた。それを見た斎藤らも郷田に倣う。

 そんな彼らを横目に、ノアは村上に何かを話そうと、もじもじしていた。それを読み取った村上は、ノアの視線へと自分を合わせる。

「村上さんにお話ししたいです……実は……」

 彼が何かを呟いている。

 しかしそんなことなど誰も気にせず、一同は最後の挨拶をしていた。

「警視総監さんや管理官さんたちに挨拶をして、私たちはアメリカへと帰ります。またいつか、次は事件関係なくお会いできれば……」

 ルーカスは軽く一礼し、その場を去った。

「何か……あっという間でしたね……」

 森田はそう言う。

「そうですね~……ノア君と少しは友達になれたかなぁ……」

 村上は名残惜しそうにノアを見ながらそう言った。

「お前なら友達になれてんじゃないか?」

 斎藤がそう言うと、「あれ……斎藤さん、なんか丸くなりました?」と村上はツッコんだ。が、すぐさま撤回。

「うっせえよ!」

 斎藤は村上の肩を軽くこついた。

「撤回します!丸くなんかなってない!」

 二人のやり取りを見ていた森田と郷田は、苦笑い。ノア達を見送り、自分たちは会議室へと戻っていった。



 警視総監の羽場と、管理官の馬場に挨拶を済ませ、ルーカスらは空港へと来ていた。

 荷物はすでに預けてある。

「これで日本ともお別れですね……」

 パーカーはそう名残惜しそうだが、「日本は消えませんからいつでも来れますよ」というノアの言葉で、しんみりムードは一掃された。

 そしてアメリカ、ワシントン・ダレス空港行きの搭乗便の時間。

 四人は歩みを進めた。



 機内。

 眠るノアの隣で、ルーカスはパソコンを触っていた。

 通路を挟んで左には、読書中のパトリックと機内映画を見て泣くパーカーが。

「パーカー、隣でうるさいよ……」

「だ、だって仕方ないじゃないか……この映画良すぎて……」

「ゴーストでしょ?あ、ネタバレしてやろうか?」

 パトリックはいたずらに笑う。

「それだけはやめてくれ!許さないからな!」

 二人の会話を耳に入れながら、ルーカスはキーボードを叩く。

 長官・アルフレッドに帰宅の連絡をしているのだ。

「ノア、そろそろ起きておこうか」

 優しく声を掛ける。

 ノアは眠い目をこすり、大きなあくびをした。

「もうすぐ着くよ」

「……あ、ワシントンだ!」

 子供のように窓の外を見て、ノアは声を上げた。

「でもまた夜ですね……日本へ行った時も夜だったのに……」

「時差があるからね。仕方ないよ」

 そして空港に到着。

 外に出ると、アルフレッドが車を用意し、四人を待っていた。

「やあ、お帰りなさい。日本はどうでした?マイク・ダンバーは関係なかったようで申し訳ありません」

「長官、白々しいですよ。分かってて我々を行かせたのですね」

 ルーカスはそう言うも、「はて……?何のことでしょうか」としらをきる。

「明日は一日、四人は休暇としてあります。体の疲れを取って、時差ボケをなくしてくださいね。業務は明後日からで構いませんから」

 彼はそう言うと、四人を車に乗せ、それぞれの自宅へと送っていった。

「ではノア、また明後日に。ゆっくり休むんだよ」

「はい、アルフレッド!」

「アンダーソンも。ゆっくり休みなさい。話ならまた今度聞くから」

 扉が閉められ、ルーカスはため息をついた。

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