⑦
捜査は一気に進展した。
郷田、森田、斎藤、村上ら本庁の班全員と、神奈川県警の三人は現場へ。残りは本庁に残って引き続き捜査を行うようにと指示があった。腑に落ちない点ばかりだが、管理官の指示には絶対だ。
だが、FBIの彼らには何も指示はなく、ただそこに立っているだけとなった。
「あ、あの……ルーカス、僕たちは何を……」
「そうだね……郷田さんに聞いてくるから、三分待っててくれるかい?」
彼はそう言ってノアの元を離れた。
「ジョンソンさん、少しいいですか?」
後ろから声を掛けられ、ノアは体を震わせた。振り返ると、そこに立っていたのは馬場だった。
半ば強引に部屋から連れ出されたノア。隣の部屋へ連れていかれ、まるで尋問のように立て続けに馬場は質問する。
「あなたの捜査方法を見ていました。なかなか強引ですね」
「ごういん……ですか?」
「ええ。それに、コミュニケーション方法にも問題があるようだ。それはどうしてですか?性格?それとも、何か別の原因が?」
馬場はノアの口から答えを出させようと試みる。しかし、ノアにそんなものは通用しない。
「僕がコミュニケーション苦手なのは個性だとルーカスが言いました。別の原因はわかりません」
「会話にも不便を感じますね」
「不便はありません」
「もしかして、何か障がいでもあるのでしょうか?」
「僕は障がいではないです。個性です」
そう話すノアの目をじっと見る馬場。ノアは思わず目を逸らした。それを見た彼は、何かに気づいたのか、それとも確信を得たのか、ノアを解放した。
「ノアっ!」
慌てて駆け寄ってくるパトリック。
「迷子になったのかと思ったよ。どうして離れたの?」
「呼ばれたからです」
「誰に……?」
「えーっと……ば……ば……さん?」
「ばば……?あ、管理官の馬場さんだね。彼に呼ばれたの?」
ノアは彼に話した。自分が話をした内容を全て。
パトリックの目には怒りの色が浮かんだ。
「そのこと、捜査長に話すよ。いいね?」
彼の口調は、有無を言わせないものだった。
「そうか……私がそばを離れた一瞬でそんなことが……。ノア、申し訳ない……」
ルーカスは申し訳ないと、ノアの肩を撫でた。しかし本人はどうして皆が悲しい顔をしているのか理由が分からない。
郷田に伝えようにも、彼は外に出ている。
本庁に残って行う捜査の指示はもらった。幸いなことに本人はさほど気にしている様子は見受けられない。ルーカスはノアに仕事を与えた。
「ノア、仕事だよ。これはきっとノアにしかできないことだ。やってくれるかい?」
ルーカスが彼に与えた仕事。それは五人の被害者の共通点を探ること。
日本警察がどれだけ調査し考えても、共通点は見つからなかった。秩序型か、無秩序型か、ここでのプロファイリングミスで捜査は変わってしまうこともある。捜査員たちは怖気づいていた。正体不明のグループが、至る所で被害者を出している。警察の威信にかけて、何としてでも解決したい。しかし、犯人は何枚も
だからこそ、ノアに頼んだのだ。
彼ならきっとまた何かを見つけてくれると、思ったのだ。
「はいっ!仕事は大好きです!五人の被害者の共通点を見つければいいのですね!」
彼は無邪気に笑うと、捜査資料に目を通した。
「捜査長……やはり、ノアを日本へ連れてきたのは間違いだったのでは……」
「今はまだそっとしておこう。とりあえず、私はできるだけノアのそばにいるようにするよ」
「ええ。俺たちもノアの近くにいます。何かあったとき、守ってやりたいですから」
彼らは資料に文字を書き込むノアの背中を見ていた。
「郷田さん、犯人は本当にここに来るんですかね……数字はやっぱり偶然だったんじゃ……」
「どちらにせよ、犯行予告時間までまだ時間がある。周りをよく見ておくんだ」
時計に視線をやる。時刻は17時半を過ぎた。あと少しで一八時になる。郷田は手に汗を握っていた。
帰宅ラッシュのせいか、トンネルには車が行き交っていた。
「くそっ、これだけ車が通ってたら、犯人の車が来てもわかりゃしない……」
神奈川県警の巡査、佐倉がそう言う。確かに彼の言う通りだ。何台もの車両が行き交っているせいで、何かを見落としそうになる。配置についている捜査員たちは、目を凝らしていた。
〈いいか、少しでも怪しいと思ったらすぐに報告だ〉
郷田は無線を通して伝える。
捜査員は“了解”と合図した。
〈郷田さん!あ、あれ……〉
張り込みを開始して、ちょうど三十分。時刻は十八時になっていた。
無線を通じて、村上の声が聞こえてくる。
この声は本庁捜査会議室にも聞こえていた。
〈あ、あの車……今、一瞬ですがお面をかぶっているように見えました。あの車がきっとPCの奴らですよ〉
声は震えていた。
「本庁の狩野から現場、応答願います」
『こちら現場、郷田です。どうぞ』
「車のナンバーは見えましたか?」
『確認します。村上、ナンバーは?覚えてるか?』
「え、えっと……確か、品川二九九の……」
村上は記憶を頼りに、ナンバーを思い出そうとする。
「ぬの一〇一五……だったような……」
郷田は復唱し、伝える。無線の向こうでは、車両照会でもしているのだろう。少しの間ができた後、声が聞こえてきた。
『ヒット!村上さん、合ってましたよ!ただその車両は、本当にPCの奴らのなんですかね……村上さんが見た車両、殺害された被害者の物ですよ……』
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