「被害者の!?」

『ええ。その車両の持ち主は第五の被害者、村野将司の物です』

 自分が見た車両が村野の物……村上は頭を掻いた。

 パソコン画面に出ている情報を、狩野は捜査員に伝えていく。

「いったい何がどうなってるんだ……」

 その時、無線を通じて何やら大きな声が聞こえてきた。声の主はノアだ。

『Why are you putting away the documents!』

「……この声、ノア君ですよね……ドキュメントって何ですか……」

「ったくお前は……。英語の勉強した方がいいぞ……」

 そういう斎藤。それを見ていた森田は「ジョンソンさんは“どうして資料を片付けてしまったのか”って言ってるんだよ」と答える。

「なるほど……資料はドキュメントって言うんですか……」

 村上はふむふむと頷く。

『I had it right here! Where are my documents!』

「……ジョンソンさん、相当パニくってますね」

 森田は郷田にそう言った。

「仕方ないですよ。それがきっと彼の特性なんですね……」

 郷田はそう言ってほほ笑んだ。

「ですが、郷田さん……ジョンソンさんは少し、こう……なんていいますか……」

 そう言ってきたのは、神奈川県警の川島だった。

「君の言いたいことは分かる。でも、ここまで捜査が進展したのは彼のおかげだ。世の中には凄い才能を持った人がいる。その人たちはどこかしらコミュニケーションが苦手だったりする人が多い。そう思わないか?ほら、天才は奇人なりっていうじゃないか」

 彼がアスペルガーだと知っているのは自分だけだ。郷田はそう思っているためか、必死にごまかす。

「まあ、それもそうですね」

 彼がそう言うと、郷田は笑顔で頷く。

『本庁、馬場だ。今、PCから本部宛てにメールが届いた。外部ハッキングによるものだ。いいか、内容を話す。一度しか言わないからよく聞け!“せっかくわかりやすく村野の車を使ったのに、我々を捕まえられないとは警察も地に落ちたな。一度本庁に戻るんだ。面白いことが待ってるぞ”メールにはそう書いてある。現場班、戻ってこい!一度情報の整理のために会議するぞ!』

 無線はそこで切れた。

「管理官、相当切れてますね……帰るの嫌だな……」

 村上はそう呟く。


 本庁会議室。

 慌ただしく、捜査員たちが動いていた。

 現場から戻ってきた現場班は、それぞれが所定の位置に立っている。

「資料まとめました!」

 デスクに座っていた女性警察官が捜査資料をまとめ、人数分の印刷を行う。郷田に手渡すと「馬場管理官、相当イライラしているので気を付けてくださいね」と耳打ちする。

「今お配りしたのは、新たな情報が加わった捜査資料です。まず、簡潔に事件の整理をしていきます」

 郷田はそう言うと、新たな情報を加えた事件概要を説明し始めた。

「事件は七日感覚で起きている。これに関してはまだ理由が分からないが、現在FBIの方たちが捜査してくれています。本当の死亡時刻も、被害者たちが着けている時計から判明、そしてPCは我々に手紙やメールを送ってきた。しかし、手紙にあった一八時に実行するというもの、実際に現場にいましたが犯人と思しき人物と被害者と思われる人物は現場には現れず、事件は起こらなかったものと思われる。ここまでで、何か追加したいこと、質問等あれば今この場でどうぞ」

 捜査員たちは口を開かず、ただ資料を見つめているだけだった。

「合同捜査初日にしては上手くいったようですね。うん、良い感じだ。では本日はここまでにして、できるだけ皆さん帰宅しましょうか。明日もまた、よろしくお願いしますね。じゃあ、解散ということで……」

 警視総監である羽場がそう言う。彼の隣で馬場は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 時刻は既に午後七時を過ぎている。

「ルーカス、帰っていいのですか?」

「うん、そうみたいだね。その前に、明日の予定聞いてくるからここで待っていてね。二人とも、ノアを頼んだよ」

 ルーカスはパトリックとパーカーにノアを任せ、郷田の元へ向かった。

「郷田さん、今日は初日ながらもノアのことを理解していただき、本当に感謝しています。初めての場所でパニックにならない彼を見たのは久しぶりですよ。本当にありがとうございます」

「いやいや、お礼を言うのはこちらのほうです。進まなかった捜査が一気に進展しましたから。明日もよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ところで、一つだけ構わないですか?明日の予定など、もしあれば教えていただきたくて。ノアに伝えたいんです」

「予定……ですか。特にこれと言ってないのですが、あ、業務開始時間は八時半ですので、それまでにここに来ていただければ。それくらいしか予定はないんです。あとの捜査は今日と変わりないですし……」

「分かりました。彼にもそのように伝えます」

 ルーカスは郷田に一礼し、彼らと別れた。

「三人ともお待たせ。じゃあ、ホテルに帰ろうか」

「僕お腹空きました」

「ははは、確かにお腹空いたね。夕食はどうしようか」

 そして四人は警視庁をあとにした。

 初日の割にはいい感じだったと、ノアの顔を見たルーカスはほっとした。

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