「やつらは復讐のために事件を起こしているというのか!?」

 郷田は思わず声を上げた。

 ノアはそれに一瞬体をびくっとさせる。

「あ、すまないノア君。彼らはどうして復讐していると思ったのか教えてくれないか?」

「……事件の詳細を調べていると、気になることが四つあります。事件が起きている間隔が七日、被害者全員が前科がある、時間をわざわざ教えている、PCのカードを残している……。これ全部、何かの復讐なんです」

 自信満々にそう答える。しかし、意味が通じない彼らは戸惑うばかりだった。ルーカスに視線を送るも、これに関してはルーカスもよくわかっていないようだった。おそらく、今までの捜査で培ってきたノア独自の感覚による答えなのだろう。

「では僕はPCが送ってきた手紙の数字を解読していきます」

 ノアはそう言ってコピーした手紙を眺め始めた。

「アンダーソンさん、ノア君の捜査能力は一体……」

「私にもそれは分からないんです。彼の知的能力は我々には理解できないほどの高さですし、考え方も感じ方も違う……。それだけでなく、記憶力に関しても優れているの言葉では表せないです。これを天才と言っていいのかどうかも。あなたたちが彼を理解できなくて当然です。今日初めて出会ったのですから。私も彼を理解するのに時間がかかりました……。ですが、とりあえず今は、彼も手紙のことに集中していますし、私達もそっちを考えてみませんか?」

 ルーカスはそう言って、手紙を郷田に手渡す。それを受け取った彼は、紙に書かれてある数字を指でなぞった。

「この数字が次の実行場所……番地を表しているのか?それとも別の何か……」

 パソコンを開き、何やらサイトを開いた。

「一八二〇〇だから……一丁目の八番地、二〇号……あれ……一つ多いか……一体どういうことなんだ……」

 ぶつぶつと呟きながら、数字と格闘していた。

「日本にはこんな数字の番地?とかあるんですか?」

 ルーカスはそう斎藤に尋ねた。

「確か、住居表示……という言い方だったかな……日本には細かい区画があるんですよ。それで配達や緊急車両も正確に、早くたどり着けるみたいな感じで……」

 斎藤はそう説明する。が、実のところ彼自身もなぜ日本にはこんなに細かい区画があるのか分かっていなかった。

「あっ!ルーカス!僕、すごいことに気づきました!」

 ノアがそう声を上げた。手には文字がびっしり書かれている紙。その紙はPCの手紙をコピーしたものだった。

「ノア君……この紙は……」

「PCの手紙です!彼らが送ってきた手紙、数字が二十桁ありました。数字は三つに区切られているけど、数字の数は違います。だから僕はこの数字が気になりました。一つ目の数字は分からないけど、二つ目と三つ目は分かりました。PCは分かるようにヒントを渡していた。ちゃんと分かるように区切っていたんだ」

「二つ目と三つ目……?それって、三五三九と一三九四一の……?」

 村上はそう尋ねる。ノアは「そうです、その数字は場所を言っています」と答える。

「場所……?この数字が?」

 捜査員はいつの間にか、ノアの周りに集まっていた。

「この数字はcoordinateです」

「coordinate……って何ですか……」

 村上は斎藤に答えを求める。彼はため息をつきながら「座標って意味だ」とだけ答えた。

 パソコンのキーボードが叩かれる音が聞こえる。ノアはそれに気づいているのか気づいていないのか、話を続ける。

「この数字はcoordinateと仮定する。三五三九五一.九は北緯、一三九四一一五.五は東経……つまりこの数字が表しているのは……」

「山手トンネルだっ!ジョンソンさんの言う通り、この数字は座標だったんだ!」

 森田が大声で叫んだ。

「それに山手トンネルは全長が一八.二㎞、PCの手紙の最初の数字も一八二〇〇、間違いない、やつらは山手トンネルで次の事件を起こす気なんだ!」

 PCが伝えてきた時間は一八時、現在時刻は午後一六時半。今から動けば現行犯で逮捕できる。ただ、確証がない。捜査員は動けないでいた。

「やりましょう!」

 どこからか声が聞こえた。声の主は千葉県警の巡査部長、結城だ。

「今まで全く進展がなかった。なのにここまで解けた。もしかしたら間違っているかもしれない。でも、やってみないと分からないですよね!だったらやりましょう!」

 彼がそう言ったのを皮切りに、口々に捜査官は「やりましょう」と言った。

 捜査員たちの士気が戻ってきたのだ。今ならいける。郷田はそう判断した。

「よし、じゃあ班分けしましょう!本庁と神奈川県警は一班、栃木県と群馬県は二班……」

 郷田は指示を出す。班で行動し、有事に備える。これは犯人が逃げたとき、犯人が大勢いたとき、捜査員や一般人が傷つけられた時のための対策だった。

「待ちなさい」

 今から行動開始というときに、静かな低い声が部屋に響いた。

「馬場管理官……」

 森田がそう呟く。

「今のあなたたちの話、捜査方針は聞いていました。ですが、確証がないのにも関わらず全員で行く必要があるんですか?」

「管理官、確かに間違っているかもしれない。でも、当たっているかもしれない。我々警察官は、事件の捜査だけじゃなく、事件を未然に防ぐのも仕事です。やってみる価値はあるんじゃないでしょうか。何も進展なく、自分含む捜査員は士気が落ちていたのも確かです。ですが、FBIの方々が来られ、今まで進展もなかったこの事件に今は動きがあるんです。やってみたいんです。お願いします、許可をください」

 森田はそう頭を下げる。それを見てか、郷田達一同も頭を下げた。

「……分かりました。そこまでいうのなら、許可します。ただし、現場に行く人数、ここに残って引き続き捜査する人、私が決めさせていただきます。全員で行く必要はありません。手分けしましょう、その方が確実性が上がりますから。それが条件です」

 捜査員たちは渋々ながらも承諾した。


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