幕間

 長官・アルフレッドから日本行きを言い渡された三十分後。部屋に戻った二人は荷造りをしていた。ルーカスは手際よく、必要なものを詰めて行く。その少し離れたところで、ノアは一つ一つを袋に小分けにし、バッグに詰めては取り出すという謎の行動を繰り返していた。

「ルーカス、服と下着はどうしますか?」

「仕方ないから、ここにある分だけ持っていこう。足りない分は日本で買えばいいよ」

 ノアは自室に置いてある予備の着替えを袋に入れ、キャリーバッグの中へと詰めていく。まるでパズルのピースのように、一つ一つ隙間に詰めていく。その動作には一切の無駄はなく、熟練の職人だ。

「相変わらず整理されてるバッグだね」

「はい。整理整頓は得意です」

 得意だと言ったノアを見たルーカスは、彼のデスクを見つめる。「整理整頓が得意だという割には、デスクは汚いんだが……」ルーカスは苦笑いした。ノアは「汚いのではなく、僕が分かるように整理整頓しているんですよ」と微笑むと、バッグの一番上にはお気に入りのタオルをそっと置いた。

 そのタオルに気づいたのか、ルーカスはノアに声を掛ける。

「そのタオル……まだ持っていたんだな……」

「もちろんです。これはルーカスがくれたタオルですから」

 ノアがバッグの一番上に置いたタオル、それは一二年前のある日にルーカスがノアにプレゼントしたものだった。彼に合う薄い水色で、ガーゼ生地の手触りの良いものだった。ノアはそれをずっと大切に持っている。所々がほつれていたり、よれていたり。それが長年使っている証だった。

「よし、これで用意は終わりです。あとはクッキーを持って出るだけですね」

「ノアは何があっても変わらないね…。クッキー、忘れないようにね」

 ノアは笑顔で頷くと、ソファーへ座った。そんな彼を見て、ルーカスもまた短く息を吐き、気合を入れる。

 これから一体どれほどの試練が待ち構えているのやら……彼はノアを日本へ連れていくのに少しのためらいを感じていた。

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