第二章①

 二人がアメリカで日本からの連絡を待っているとき、先に到着していた二人のFBI捜査官、パーカー・コールウェルとパトリック・バートは警視庁へと歩みを進めていた。

 ワシントンから東京までの時間、東京に着いてから警視庁までの時間、全てをメモしていく。あとでルーカスにメールするためだ。

「ここか……」

 パーカーが携帯に示された位置と、目の前にそびえ立つ建物を交互に見る。

「間違いないね。これが警視庁だ……意外と大きい建物なんだな」

 二人は正面玄関へと歩いていった。入口に立つ警官に声を掛け、FBIバッジを見せる。しかし警官は英語が分からず、バッジを見ても「これは何だ?」と戸惑っていた。

「私と彼はアメリカのFBI捜査官です。ここの警視総監に会わせてもらう。日本で起きている事件に似たのがアメリカでも起きた。FBIの長官から合同捜査の報告を受けた」

 パーカーは拙い日本語で説明するが、警官は戸惑うばかりだった。それどころか、怪しげな顔で彼らを見ている。

「はぁ…どうしようか…。こんな時あの二人がいればな…」

 パーカーの脳裏に浮かんだのはノアとルーカスの二人だった。

『私と彼はFBIの捜査官です。これはそのバッジです。前もって連絡をしていると思いますが、今、日本で起こっている連続事件に酷似したものがアメリカでも起きました。そしてその事件が日本で起きているものと同じだと判断され、我々がここへ送られました。警視総監の羽場と言う方にお会いしたい。彼は我々がここへ来た理由を知っている。一度連絡してみてほしい』

 パトリックが手にしている携帯から、日本語音声が流れる。それを聞いた警官は敬礼の形を取り、「すぐご連絡いたします」と答えた。しかし、彼が発した言葉が速かったようで二人には聞き取れていなかった。

「今、彼はなんと言ったんだ…?」

「分からない。というか、パトリック、君がやったのは一体何だ?」

「これかい?これは自動翻訳だよ。君だって知ってるだろ?俺が英語で入れた。それを携帯が自動翻訳して日本語で発したというわけさ」

「あ~!そうか。それを使えば良かったんだな。完全に忘れていたよ……僕の手には文明機器があるというのに……」

 パーカーは顔を触りながら肩を落とした。その横でパトリックは得意そうな顔をする。しばらくして、さっきの警官が戻ってきた。彼はゆっくり丁寧に話した。きっとこの二人が本物のFBI捜査官であると確認が取れたこと、二人の日本語は拙いということを考慮したのだろう。

「警視総監がお会いするとのことです。案内しますので、私に付いて来て下さい」

 彼の言葉を今度は聞き取れたのか、二人は頷き彼について行く。案内された場所は赤いカーペットが敷き詰められた廊下。その廊下の突き当りには、温かみのある木の扉が目に入る。

「警視総監、FBIのお二方をお連れいたしました」

『……お通ししてくれ』

 扉の奥から聞こえてきたのは、低く太い声。警官に促され二人は扉を開けた。二人は警視総監の顔を見ると、お辞儀をしたあと自己紹介をした。

「私はFBI捜査官のパーカー・コールウェルと申します」

「私は彼と同じくFBI捜査官のパトリック・バートと申します」

 目の前の強面な男性は、机に手を置き、音もなく席を立つ。二人の前まで歩いていき、そっと手を差し出す。

「遠いところ、良く来てくれました。私は警視総監の羽場秀人と申します。お二人のことはFBI長官よりお聞きしています。日本での捜査、よろしくお願いします」

 羽場はそう言うと、日本で起こった連続殺人事件、Perfect・Crime、捜査の現状を説明した。それを聞いたパーカーは日本語で返す。

「なるほど。では現状から言うと事件解決になるような手掛かりは無いと言うことですか……」

「お恥ずかしながら、そういうことです。しかし、東京での救世主事件の被害者、村野将司さんについては今、捜査一課の班が捜査しています。彼らは優秀なチームですので、何か手掛かりを見つけてくれるかもしれません」

 羽場はそう言って二人を捜査一課へと案内した。

 扉が開き、その場にいる刑事が一斉に二人を見る。何者だ?何した来た?刑事たちはそう言った目で、彼らを見つめた。

「馬場管理官、少し良いですか?」

 馬場は急に目の前に現れた羽場に驚き、すぐには現状を理解できていなかった。

「け、警視総監……。あ、お話なら奥の部屋に……」

 二人が案内されたのは、捜査一課室内にあるミーティングルームだった。

「管理官に話がある。まずはお二方を紹介します。こちらがパーカー・コールウェルさん、こちらがパトリック・バートさんです。お二人はアメリカFBIの捜査官で、日本で起きた救世主事件がアメリカでも起きたので捜査に来たと。……詳しい説明をどちらかお願いできますか?」

 羽場に促され、パトリックが説明した。


 アメリカ・ワシントンで、ある一人の男が自殺した。

 被害者の名前はマイク・ダンバー。彼には少女誘拐の前科があり一度は逮捕されたものの、判決時に心神喪失状態だと判断され、不起訴となる。FBIははじめ、その事件の関係者が復讐目的で殺害したと思った。しかし現場の状況から自殺だと判断される。

 捜査を続けていくうちに、マイク・ダンバーの遺体解剖の際におかしな点が三つあることに気づいた。

 一つ目、被害者には抵抗した後があること。

 二つ目、腹部に殴られたような痣があること。

 三つ目、口内にカードがあること。かろうじて読めるそのカードには“Perfect・Crime”と書かれていた。遠く離れたアメリカで、日本の事件と酷似した事件が発生した。アメリカの事件も同様に、犯人に繋がる証拠は無く手掛かりも無い。被害者の足取りを追ったところ、彼が最後に訪れた場所が日本だった。誰かと連絡を取っていたと裏付けもある。そして何より、その相手が日本にいる。そのために自分たちが来たのだとパトリックは説明した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る