②
「五人の被害者については、今お配りした資料になります。お手元をご覧ください。第一の被害者……」
捜査会議室のホワイトボードには、現場に残されたカード、被害者たちの概要が書かれていた。
【被害者概要】
第一被害者
氏名:
年齢:五七歳
前科:窃盗
処罰:示談
現在:工場勤務。盗んだ分の金額を親戚に返金している最中
死亡推定時刻:四月一〇日 午前二時半~午前三時半
第二被害者
氏名:
年齢:四八歳
前科:借用詐欺
処罰:懲役五年
現在:出所後、隣町の工場で働いていたが数か月で辞職
死亡推定時刻:四月一七日 午後四時~午後六時
第三被害者
氏名:
年齢:三九歳
前科:強制わいせつ
処罰:懲役八年
現在:出所したばかりの為、フリーター
死亡推定時刻:四月二四日 午前十時~午前十一時
第四被害者
氏名:
年齢:二九歳
前科:結婚詐欺
処罰:示談
現在:ファストフード店にてアルバイト勤務
死亡推定時刻:五月一日 午後三時半~午後五時
第五被害者
氏名:
年齢:三〇歳
前科:傷害致死罪
処罰:懲役一〇年
現在:出所後仕事に就くも、働く意欲がなく辞職の繰り返し。
死亡推定時刻:五月八日 午前一時~午前二時半
「このように、被害者たちに共通するものと言えば、現時点では前科があったくらいで、他には見つかっていません。また、犯人に繋がる証拠等は一切見つかっておらず、捜査が進んでいないのが現状です……」
会議室はため息に包まれた。これまで五件の事件が起こっているにもかかわらず、証拠はなく、犯人逮捕に至るまでの手掛かりも何一つなかった。
【アメリカ・FBI本部】
ノアとルーカスはFBI長官のレイ・アルフレッドの元へ来ていた。
「アンダーソン、ジョンソン、君たちの……」
「ノア……ジョンソンではなくてノアです……」
「あ、ハハッ。そうだったね、ノア。君たち二人の活躍はブロディ君から聞いてるよ。彼も二人のことを褒めていた。特にノア、君が来てから事件解決のスピードも件数も格段に上がった。いい仕事をしていると聞いてる。ノア、ここでの仕事はどうだ?」
ノアは背中で組んでいた手を胸の前に出し、俯けていた顔を上げた。隣に立つルーカスを見ると、彼は優しい顔で頷いた。
「楽しいです。ここには僕の興味を惹くものがたくさんあるし、僕が言ったことが事件解決に尽力していると、みんな言ってくれます。それに、ここにはルーカスがいる」
「そうか。確かにノアが言ったことが解決の糸口になっているようだね。そう報告を受けているよ。ノア、アンダーソン……今、日本で起こっている連続事件を知っているかね?救世主事件と呼ばれているそうだが……」
「救世主事件ですか……。ええ。存じ上げています。確かに連日のように、特集が組まれていますから」
「Perfect・Crime、直訳すれば完全犯罪という意味です。犯人は事件を起こしたあと、現場にはそう書かれたカードを残している。この事件、日本では救世主やセイヴァーと呼ばれているそうで、被害者はみんな前科があると……」
アルフレッドは笑顔で頷いた。感心の目をノアに向けている。
「その通りだ、ノア。君は相変わらず良く知っているね。実は日本で起こっている事件に酷似したものが、アメリカでも起こったんだよ。そこで二人に聞いてもらいたくてね、呼んだんだ」
彼はアメリカ、ワシントンで起こった事件について説明した。
「被害者はマイク・ダンバーと言う男だ。彼には少女誘拐の前科がある。しかし、判決時に心神喪失状態だと判断され、不起訴となった。そしてその男が死んだ。当局は初め、その事件の関係者が復讐目的で殺害したと思った。しかし、現場の状態から見ると、明らかに自殺だと判断せざるを得ない状況だった。そして、マイク・ダンバーは自殺で処理された。しかし、遺体解剖の際におかしな点が浮かび上がった。一つ目、被害者には抵抗した後がある。二つ目、腹部を殴られているのか痣があった。三つ目、口内にカードがあった。そのカードには“Perfect・Crime”と書かれており、日本の事件と酷似している。そこで、君とノアには日本へ行ってほしいんだ」
アルフレッドがそう言う。すかさずルーカスは尋ねた。
「なぜ日本へ……?うちで解決すれば……」
「いや、そうもいかないんだ。被害者の足取りを追ったところ、亡くなる前に数日間、仕事で日本へ行っていたことが分かった。ただ、その仕事と言うのがまた問題でな……」
マイク・ダンバーの仕事、それが日本人少女の誘拐だったのだ。誘拐する前に殺害されたため、幸いにも少女に被害は及ばなかった。そして、マイクが最後に連絡を取った人物が、日本にいると言うのだ。おまけに、特殊事件を解決するには、ノアが必要だ。
日本警察は、FBIのノアを知り、直々に依頼してきた。もちろんこれは、機密事項だ。
「なるほど……それで私とノアを日本へ……。ただ、ノアの特性上、環境が変わった場所に対して、今までと同様に能力を発揮できるか……」
「そこは承知している。ただ、証拠も手掛かりもなく逮捕には至らない。このような事件がアメリカと日本で起きている。ノアの力じゃないと解決できないのではと思ってな。それに、日本はノアのもう一つの故郷だろう……。君とノアは日本語が話せるし、適任だと思ったんだ。それに、ノアに関しても君がいれば安心だと。どうだ?やってくれるか?向こうからの依頼でね……」
ルーカスとアルフレッドはノアを見た。彼はまた俯き、背中側で手を組んでいた。不安なのだ。
「ノア、日本へ行けそうか?」
アルフレッドにそう聞かれ、ノアは自信なさげに頷いた。
「ノア、決して無理をする必要は無いからね。辛くなったらいつでもここへ戻ってきて構わないから、少しだけ行ってきてほしいんだ」
アルフレッドはそう優しく声を掛けた。ルーカスは、そわそわしているノアを見て何かに気付いたのか、腕時計を見る。
「長官、申し訳ないのですがそろそろ……」
「あ、そうだね。ノア、長くなってすまない。じゃあいつも通り捜査を頼む。日本へ行く件はまた知らせるから……」
ルーカスはアルフレッドに声を掛け、部屋を出る。ノアもまるで金魚の糞のように、彼の後をついて部屋を出た。
「ノアがここへ来て半年か……。君をFBIに入れたのは異例だからな……。君を推薦したのはアンダーソンとは言え……まさかノアがこの仕事が出来るようになるとは……。彼はノアのことをよく見ている……」
アルフレッドは誰もいなくなった部屋で一人呟いた。
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